風力魔術によって、地下一階まで上りました。
部屋の入り口はぽっかり開いた丸い空洞。
私が一番先に到着したので、皆さんが揃うのを待ちました。

修一さん、友恵さん、竜司さん、隆正さんの順番で上がってきました。
ちょっと赤らめた友恵さんが私にポツリと

「スカート押さえながらだったから、見られてないかしら?」

聞いてきたのですが、答えようもありません。

「ええと、暗いから見えてないと思いますけど・・・」

「そうよね!うん!きっとそう!!」

自分で自己完結してくれたみたいです。

部屋の中央に魔方陣が敷かれてあって、その上にユニコーンが寝ていました。

「ユニコーン!」

修一さんの呼びかけにユニコーンの耳がピクっと動き、首を起こしました。
見知らぬ私たちを見て、大いに戸惑っている様子に思えます。

それもそうでしょう。

ですが、時間がありません。
下からは奴隷戦士が出現し、王からの応戦部隊が出発した頃です。

「では、封印解除を行いますので、後ろの敵に注意してくださいね」

「分かった」

私は魔方陣のギリギリ位置に立ち、竜司さんはその少し後方
修一さんと隆正さんはやや後ろの方で、友恵さんが丁度間に立ちました。


言葉を思い出します。
















「なぁ。ロゼット・・・」

「なんだ?」

「不意打ちにでてくる奴隷戦士って・・・」

「どう見ても”レジョンジー=ヴァドス”だな」

「俺もそう思う」

「私もー!」

「だぁぁぁ!俺じゃねぇけど、なんか複雑ーー!!!」

「・・・ああ、そーだな」

「そーぉ?全然大丈夫だよ〜」

「・・・気楽でいーな。おまえ・・・」










「終わりましたー!」

後ろを振り返ると修一さんと隆正さんが奴隷戦士を倒していました。
しかし、続々と先ほどきた道から同じ奴隷戦士がやってきています。
お二人のおかげでなんとかこちらに敵が来ないようです。
はっきりいって凄いです。
いくら知識があろうとも、体がスムーズに動くことってあるのでしょうか?
戦闘では絶えず後ろで策略を練り、直接手を下すことがないので
ちょっと解りません。きっと、私には無理でしょうね。
やろうとも思いませんけど

「さぁ。ユニコーン」

竜司さんが優しくユニコーンの前に出ますが、ユニコーンは怯えるように後ろへ下がります。

「僕はバーストロット=マギーだよ。彼方へ飛ばされて生れ変ったんだ」

パチパチとユニコーンが瞬きを繰り返します。

『本当にマギー?』

幼い声がユニコーンから発せられます。
四聖獣は言語を理解でき、発せられる動物なのです。

「ああ、本当だよ!君の主人も助けに来ている!」

『ロゼットも!?』

喜びと驚きが混じっています。
このまま再会や経緯などを話してもいいのですが、何度も言うように時間がありません。
彼らの会話に水を射しました。

「ユニコーンさん。逃げるのを先にするので詳しい説明は後にします」

ユニコーンの蒼い瞳が私を見定めます。
そして怯えます。

『・・・あなたは、魔女?』

「はい」

『そんな・・・』

「ユニコーンさん。よく聞いてください。
貴方を含めて、私たちは今すぐ逃げなければ殺されてしまいます。
私と一緒では、逃げにくいでしょうが・・・一緒に逃げてください」

「大丈夫。魔女だけど・・・この子のおかげで君を助けるコトが出来たんだから」

ユニコーンの迷いは一瞬でした。

『うん、逃げる。もう閉じ込められるのは嫌だ』

「じゃぁ、魔女ちゃん。出口はどこ?」

タイミング良く、友恵さんが声をかけました。

「あそこです。いかにも怪しいって風貌の壁です」

指し示した場所は壁に四角い段差がある線が浮き出ている壁です。
竜司さんと友恵さん、ユニコーンさんが照らし合わせたように「あー」と声をあげました。

「・・・やっぱり」

小さく呟いて、友恵さんは二人に向かって叫びました。

「逃げるよーー!!」

「了解!」

修一さんは奴隷戦士の体を数体分まとめて切り裂き、燃やしてぐるっとこっちに向かいました。
隆正さんは鈍器を振り回し、ひるんだ奴隷戦士に蹴りを食らわせドミノ倒し状態にさせてからこちらへきました。

手のひらを壁にくっつけ、トンと小さく押すと壁が跡形もなく消えました。

「こっちです」

私が一番に入り、なだらかな上り階段を駆け上がります。
続いて竜司さんとユニコーンさん。友恵さん。

ユニコーンさんは通るかな?と少し心配しましたが、大丈夫でした。
広めに創ってある隠し階段ですね。

少し遅れて修一さんと隆正さんが上り始めました。
奴隷戦士も追ってきます。

「あとどのくらいで出口だ!?」

息を切らせながら修一さんが聞いてきました。
私たちと距離があったのに、もう追いついています。隆正さんもです。
お二人とも、足が速いようで

「じ、時間はわかりません。あと少しなんですけど・・・」

「ロゼット!追いつかれそうだ!」

隆正さんが後ろを振り返りながら叫びました。
登る大勢の足音がだんだん近づいています。
向こうは死んでいるので体力の限界というものがありません。息とか切れないので、厄介ですね。

「魔女!階段が切れてる!」

竜司さんの慌てた声がしました。どうやら隠し扉についたようです。

「ええと・・・」





普通に天井を持ち上げました。
ゴ。と少し音がして、紅の光が少しずつ広がっていきます。
反動をつけて上へ押し出すと
ガコ。と蓋が固定される音が鳴りました。これでもう閉まりません。

「・・・も、持ち上げれる重さ・・・だった、ん?」

竜司さんがユニコーンを先導しつつこちらに向き直りました。
呆然・・・というよりも苦笑いに近い顔でした。

「はい」

返事をすると後ろから「はぁ〜」とため息が聞こえました。
何やら、皆さんとてもお疲れですね。

「とりあえず、逃げようか」

「そ、だな。追われているのには違いない」

「そーね」

全員、地下階段から抜け出して、駆け出します。
私は階段近くにある入り口の鍵・・・最初入ってきたときと同じ仕掛けですけど
・・・を、引っ張ります。
カチっと音がしたのと、重みを感じて、念のため力を緩むと閉まる動きをしました。

じーと階段の奥を見つめます。

駆け足の音から、修一さんの声が聞こえました。

「!?おい。魔女!?」

この声に全員の駆け足音がやみます。

「魔女ちゃん!逃げなきゃ追ってくるんでしょ!?」

「何やってんだ!?」

「魔女!」

『早く逃げようよ!』

皆さん、口々に心配してくださっているので、視線は変えないまま答えました。

「解っていますが、どうしても『やりたいこと』があるのです」

「やりたいこと?」

怪訝そうに誰かが呟くと同時に、階段から奴隷戦士が雪崩のように上がってきました。
一人一人の顔や模様まではっきりと見えて、

地面と階段の境に、先頭の奴隷戦士の頭がちょっと出たときに・・・
























「―――♪」



大成功





こんな悪戯、向こうでは出来ませんからね。
亡霊ですので、怪我はないでしょうし



『あのさ。魔女・・・』

「はい?」

『やりたいことって・・・これ?』

「はい!大成功しましたね!」

「ウキウキだなぁ、おい」

「うわぁ・・・」

「だから、敵に回すと厄介なのか?」

「い、痛そう」

「ちなみに、あの蓋は持ち上げるときは軽くなるよう風の呪文がかかってます。
ですので、閉めるときに一時解除するので、元の・・・いえ
それ以上の重さになってしまうので開け閉めは注意が必要なのです」

「・・・聞いてねぇよ」

皆さん、大変疲れている様子。
もうユニコーン封印奪回は終わったので、元の世界へ戻りましょう。








元の世界は

夕暮れを通り越して、夜に突入していました











「じゃ、修一ん家で今後のことでも話すか?ユニコーンも経緯が知りたいだろうし」

「そうしよっか。二人とも喜ぶぞ」

『えへへ。楽しみ』

そのやり取りを眺めているのが隆正さんと友恵さんです

「今回は成功したな。これでちょっとは王の陰謀も砕けたらいーが」

「もっとエスカレートしたりして」

「ありえる。王の取り方しだいで、俺らの行動も変わるな」

「せめて刺客をこっちに送るの止めてくれればいーのにね。
あ、そうそう、魔女ちゃん
今日はありがとう、これから多分、佐鳥さんのところで軽くお祝いするけど、どうする?」

友恵さんは振り返りましたが、肝心の魔女はぼうっと空を見ているだけです。
私も、皆さんよりも、時間が気になります。
空を見ながら誰ともなしに聞きました。

「今、何時・・・ですか?」

「七時、五分前」

隆正さんの声ですが、お礼を言う暇がありません。
変わりに

「うわーーーー!!!大変ですーーー!!!」

電車の時間に遅れます!
というか、完全に帰宅時間過ぎてしまいますーー!!!

「な、何が大変なんだ?」

修一さんが汗を浮かべて聞き返しますが、私はくるりっと皆さんを向き直って

「早く帰らないと怒られるのですーーー!
それでは皆さん、失礼します!」

ペコリとお辞儀をしながら駅に向かってまっしぐらに走り出しました。
電話ボックスから自宅に連絡しなければなりません。

「お、おい」

「魔女!」

『こけるよー?』

また振り向いて手を大きく振って、そのまま駅まで全力疾走です。


自宅に着いたら義兄に怒られました。
若い子がこんな時間までウロウロしない!とのコトです。
義ち・・・いえ義母はまだ戻っていないのでお説教は深夜にもう一度行われると思われます。

心配して頂けるので大変嬉しいのですけど
今日はどこへ行っていたのかと聞かれましたが

・・・答えることが出来ませんでした。


あの冒険はこれで終わり、なのでしょうね

そう思うとホッとする反面、少々名残惜しい気もします。

でも、追いかけられたりはこりごりです。

寝る前にふと思いました。
皆さんは、あのあとどうするつもりなのでしょうか?










次ページへ続く☆