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首が――!?
チュンチュン♪
雀の鳴き声が朝だと告げていました。
ボサボサ頭のまま、私はぼーっと考えます。
「はぁ・・・」
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今日が丁度日曜日なので、私は早朝から出かけることにしました。
家から必要と思える道具をもって行きます。
そうですね・・・
縄は二本くらい、金槌もいりますね
あとは・・・お水とお昼の食事と・・・
レモンも、もって行きましょう。
一つのウエストバックに入れて、さぁ、出陣です!
電車でポイントまで行きます。
この辺が多分渓谷の近くだと思いますので、扉を作ることにしました。
呪文、というよりも感覚ですね、これは・・・
ぐにゅっと歪んでいく飴に思いっきり力を入れて隙間を作ろうとする要領です。
「開け、・・・・・・・・・・扉」
開け、ゴマといいたかったのですが、間抜けなので止めました。
どうであれ、竜司さんが作ったのとそっくりな扉を作ることに成功したのですが、少し・・・
エスカレーターっぽくなってしまいました
すぐ前に景色が見えるのではなく、扉の前には光の流れがビュンビュン音を立てて流れています。
吸い込まれるような、掃除機のような迫力があります。
行ったら、戻ってこられないようなそんな気もします。
失敗、したのでしょうか?
多少苦笑いを浮かべたのですが、やはり行くことにしました。
どのみち、行かなけばならないし
皆さんと一緒に行くと倍時間がかかりそうなので単独で行くと決めたのですから
このくらい、自力でなんとかしなければなりませんね
それでは、行ってきます。
ザァァァァ
水の流れる音がいたします。
無事、目的地の丁度良い位置に到着しました。
しかし、扉から出る瞬間はじき出されるかと思いました。
目の前は渓谷。深い谷がある場所です。
落ちたら良くば滝の中で溺死、悪ければ岩底に激突死になってしまいます。
扉の中は少し長い通路になっていて勢いがあります。
まるで、真っ直ぐ伸びたエスカレーターの上を全力疾走したような感覚でしょうか?
念のために扉に近づくと、風圧で中には入れません。
出口とセットで創った気はないんですが、その数メートル向こうに同じような扉がありました。
入ってきた扉がどんどん薄くなるにつれて、もう一つの扉がどんどん濃くなってきます。
多分あれが元の世界へ戻る扉なのでしょう。
新しく扉を作ろうとしても創れませんでした。
あの扉でしか帰れないのですね。
きっと、アバウトな距離で今後も出てくると思われます。
一応、それは置いておいて
私は眼下の景色を一望しました。
高いです。高度はどれくらいでしょうか?
小さく白い色だと思える柱が数本、奴隷戦士と思われる動きが数体いらっしゃいます。
お目当てのファルコンさんはあの柱がある位置から数十メートル上の祭壇にいらっしゃいます。
普通は、下からの階段で登るのですが
そこには奴隷兵士がたくさんいらっしゃいますし、何より
王に仕えていらっしゃる魔術師さんが配置されているようです。
祭壇の位置は下からは死角になっている上に、魔女でなければ入れないようになっています。
あの場所には敵はいないでしょう。
運良く、朝もやがかかっています。
縄が役に立ちますね。
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時間は多少かかりましたが、祭壇前に到着しました。
途中縄が足りなかったので近くの足場で降りて、固定呪文を解除し
またその場で固定呪文を・・・三回繰り返すことになりました。
10メートル長さを用意したので30メートル
ビル10階以上の高さだと思われます。
予想通り、この場所は誰もいらっしゃいません。
用心しながら崖に彫られた穴から入ります。
入り口は反対側ですが、入るのならどこでも同じでしょうし
もし、豪勢な入り口を見たいのであれば、下から進むと良いかもしれません。
中は暗いのですが思いのほか風通しもよく・・・少し寒いくらいでした。
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『ぐぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』
ファルコンさんの断末魔に、私は耳を塞ぎながらじっと見ていました。
内心、ああ、ばれたでしょうね・・・と遠い目をしてしまいます。
『ぉぉ・・・・・???おお?』
嘴を大きく開けたまま、ファルコンさんはパチパチと二回瞬きをしてグルグルと首を動かしました。
顔を左右に向けてキョトンとしながら
『おや?俺は〜??』
私に視線を向けます。
じーっとこちらを凝視した後、ファルコンさんは立ち上がって鳥が威嚇する仕草をします。
『貴様!魔女だな!!』
「はい。ですが、落ち着いていただけませんか?」
『落ち着いていられるか!?貴様が俺にしたこと、忘れたとは言わせないぞ!』
目が血走って、全身の毛と羽毛が逆立っています。
「忘れてはないんですけど、私には直接関係ありません。
それよりも敵がここに・・・・・・・」
ビュウっとファルコンさんの周りで風がうねっています。
これは・・・危険ですね。怪我どころじゃなくて、死んでしまいます。
ここは何とか落ち着いて欲しいのですが・・・攻撃系の呪文は思い出せないし使いたくもありません。
何とか話し合いで解決してみましょう。
「あの、ファルコンさん。一応、こちらの話も聞いていただきたいのです。
私は魔女ですが、貴方に一切危害を加えるつもりもありませんし・・・それに、もうすぐ敵が・・・」
『やかましい!覚悟しろ!』
ザシザシと前足で砂を蹴る仕草に入っています。
獣の口があれば牙をむき出しにして威嚇できるのでしょうが、嘴なので大きく広げるだけです。
怖いけど、迫力には欠けますね。
・・・えーと。
そんなことを悠長に観察している時間はなさそうですけど
話を聞いてくれないとどうすることも出来ません。
ファルコンさんは猛禽類特有の眼光でこちらを睨みつけます。
『ここで会ったが・・・・・・・・・・・』
セリフが途切れました。
一度瞬きをして
『何年経ってる?』
聞かれたので正直に答えました。
「封印されてから、ですか?それとも魔女が死んでから、ですか?」
『封印・・・・って、魔女が死んだ!?』
「はい、こちらの世界では・・・死後14年でしょうか?」
『14年!?たったそれだけ!じゃぁ・・・おまえは・・・・』
ファルコンさんの目が糸のように細く細くなります。
『魔女、にしちゃぁ、色気ねーし、歳も若いな』
色気は余計です。
「彼方で産まれた魔女の記憶、知識を持つ者です。ええと私は、魔女、ですね。はい」
すいません。と謝るのですが、ファルコンさんは厳しい目を私に向けます。
そのまま・・・威嚇したまま「がぁ!」と奇声をあげました。
大量の風が一つに集まって薄い塊がいくつも作り上げられていきます。
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「ど、奴隷戦士!?もうきていたのですか!?」
入り口にびっしりと灯る解放の炎。
どんどん朽ちてゆく体。
消えるまで、通り抜けしたくない場所と化しています。
「あの・・・」
距離でいうなら私が一番最初に襲われています。
これは、助けていただいたのですね。
「ありがとうございます。ファルコンさん」
頭を深々と下げると、ファルコンさんは驚いたように目を見開いて私を見ます。
それからのっしのっしと近づいてきて首で背中を示しました。
『乗れ、魔女』
「え?よろしいのですか?」
『逃げるのが先決だ。ここにいては貴様も殺されるのだろ?』
「はい」
『なら乗れ。不本意だが、封印を解いてくれた礼だ。一緒に逃げてやる』
この申し出をありがたく受け取りました。
「はい、ありがとうございます」
ファルコンさんの体は大型猛獣くらいありそうで、背中・・・肩でしょうか?
そこへしっかり捕まりました。
『よし、乗ったな。全速力で飛ぶからしっかり捕まっていろよ!』
「はい!」
バサっと羽ばたいて風が地面から吹き上げてきました。
後からここへ入ってきた奴隷戦士達はまた外へ吹き飛ばされます。
その隙に一気に崖へと飛び出しました。
「・・・うわ!」
ジェットコースターに乗っている感覚です。
ビュっと風がなります。
下を見ると魔術師さん達が何か呪文を唱え、生み出している光景が広がっています。
『魔女、あれか?』
あっという間に崖の上に到着し、少し追い越します。
キっと空中で止まって、ファルコンさんが示すのは間違いなく扉です。
「はい」
返事をするとファルコンさんは一直線に扉に向かいました。
ですが・・・
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