瞬間冷凍保存・・・・?











チュンチュン♪





雀の鳴き声が朝だと告げていました。
ボサボサ頭のまま、私はぼーっと考えます。

「はぁ・・・」


















国、いえ、陸地の北側にやってきました。
目的地に到着するのに、相変わらずちょっと押しだされるような感覚と長さはありますが
今度は自由に作ることが可能になりました。

人間、経験を積めばなんとかなるものですね。

「・・・さぶ」

氷が出てきたのできっと寒い
そう踏んで雨具のコートと手袋、マフラーをしてある程度の防護をしてきたのですが

一面の凍り世界を見て、思います。

ちょっと失敗したような気が・・・


まぁ、それは置いておきますか。

今は真下に見える氷の湖の中へ入る方法を試しましょう。
この中に聖獣の一人、シーラさんが眠っています。

分厚い氷の下は水で、マイナスの水温
そのまま入れば説明ヌキに死にますね。確実に凍死です。
そのような理由からか、魔女はここに敵を配置することはしませんでした。
中の遺跡に奴隷戦士数体を設置しているくらいです。
見つからなければ恐れるに足りません。

さて、問題は出口です。
辺り一面の氷景色を見る限り、どこにも出入り口がないように思えます。

でも、魔女は味方をも欺くのが大変好きなので

出入り口を作っていないと王には告げていましたが


こっそりと作っています。



湖の下にある塔から少し離れた場所の場所に足で合図を送りました。












数メートル分厚さの氷のどんでん返しの中は
氷で作った階段がらせん状に下っています。

とても寒いです

まるで冷蔵庫の中に滑り込んだようです。
滑らないように降りていくと、今度は水族館の水中トンネル顔負けの景色が広がります。
中は水で、魚も力強く、寒さに強そうな・・・
いえ、凍っています
凍っている水草が岩壁にびっしり張り付いているのが見えました。








階段は塔の一番上の小窓の一つと繋がっていました。
空気はあるようです。
塔の周りにも氷で固められているので水は浸入していないようです。

「うわ」

壁に手袋が引っ付きました。
慌ててベリっと剥がします。手袋をつけて良かったと改めて思いました。














改めて最上階の部屋を見渡すよりも先に巨大な氷の塊が目に入ります。
中央に琥珀の蚊のような状態のシーラさんが固まっています。

シーラさんの体は大きく、全長7メートル。幅3メートルです。
ちょっと細身の蒼い体をしています。

「大きい。だからわざわざここにシーラさんを封印したんですね」

ここはもともとレジュバン族の神聖な水中神殿としてシーラさんを祭る建物です。
広さと良い、幅が丁度シーラさんの体を保存できる環境がはじめから整っている場所。

『そうなんですよ』

反響する声に私は驚いて辺りを見渡しました。
奴隷兵士が来たのかと思ったのですが、彼らが来たのなら話しかける前にイキナリ攻撃を仕掛けるはずです。
首を捻るとまた声が聞こえました。

『ここですよ。誰かさん』

「あ・・・」

上を見上げました。氷の奥で瞼を瞑っていたシーラさんの蒼い目が私を見ています。

『はい、その通り、私です』

「こんにちは。シーラさん」

話せるとは思いませんでした。
慌ててお辞儀をするとシーラさんは目だけ細めて笑うような顔になりました。

『こんにちは。ここによく入ってこれましたね。人と話をするのは何十年ぶりでしょうか?』

「魔女がここに貴女を封印してからの時間ですから20年ぶりだと思いますよ?」

『あら?まだその程度なんですね』

少し意外そうに言ったあと、シーラさんの目が私をじっくりと眺めます。

『貴女は?魔女・・・の知識を得ている人間ですね?』

「はい。彼方からやってきました」

『わざわざ?私を解放するために??』

「はい」

『まぁ。ご苦労様です。ありがとうございます。
聖獣全てが封印され、均衡と調和が危うくなっています。
そろそろ限界かな?と思っていたので丁度良かったです。』

「そんなに、酷くなってますか?」

表情を読み取ったのか、シーラさんは目を細めて『はい』と返事をしました。

『魔女さん。封印を解いて貰う前に少しお話しませんか?
奴隷兵士に邪魔される前に少しお互いの状況を整理しておきたいと思いますが・・・』

「お願いします。私の場合は・・・」









シーラさんが封印されている時に見ていた世界は
王さまに仕える魔術師達の力が異様なほど協力になり
魔法国家として栄え始めています。

もともと、この世界は大小の民族で成り立っていますが
王さまは自分の国家の拡大を目論み、豊かな土地に住む民族に戦いを挑むことが多くなったそうです。
配下に加わった民族にはそう手荒なまねはしないようですが
逆らった民族には容赦なく殺害を繰り返しているようです。

魔女の死後、一度民族達の間で大きな反乱が起きたようですが
聖獣の封印により勝利は王にもたらされます。

聖獣の力をコントロールするシステムが魔女によって創られているため
王に仕える魔術師は強大に
逆に、聖獣を崇め、仕えていた魔術師の力が衰弱するという自体が起こり

王はまさに敵なしの状況です。


『しかし、ここ数年。王から怯えが読み取れるようになりました』


王になるために、前王を暗殺
忠義を誓っていた部下達の亡霊を恐れて抹殺するべく定期的に奴隷戦士を送りだしていたのですが
それでも彼の周りをチョロチョロし始めて・・・・皆さんでしょうね。きっと

「それは多分。私同様に知識を持ってしまった彼方の人ですね。
それに、私も生まれたときに魔女の記憶があったわけではないのです。
王から彼方の生まれ変わりを暗殺するように仕向けた奴隷戦士に追われて
それで修一さんに助けていただいて、記憶があるだろうと言われて・・・
実際にあったのですが・・・それって、裏を返せば王が自ら・・・」

首を絞める結果になっています・・・・

「自業自得、ですか」

『そうですね。王は魔術師に命令して年に数人ずつ奴隷戦士を送っています。
彼方へ送れる魔術師もそう多くはないのですが・・・』





あ、そうです。そうでした。
魔女はあることをギュストに言われたのです。
死の瞬間、魔女は真実を見てしまった。


私は顔を上げました。

「シーラさん。積もる話と今後の事はロゼット達と相談することにしましょう
・・・ハックシュ!」

私のくしゃみを見て、シーラさんは目を白黒させました。

『す、すいません!ここは寒いのですよね!気づきませんでした!!ごめんなさい!』

「ぃへぃへ。大丈夫です。ですが、シーラさん、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

『なんです?』

「私は魔女です。シーラさんは、私を信用してくださいますか?一時的ですが
前王の知識を持つ方へつれて行ってもらえると・・・」

こういうと、シーラさんはちょっとだけ目を開いて私を見ました。

『ええ。勿論です。魔女は嫌いですが、貴女は別です。
ユニコーンもファルコンも、貴女が助けたのですから・・・信じますよ』




















『ご、ごごごごっごごめんなさい!!』

氷の解けた水でぐっしょり濡れました。
ついでに流されました。
壁に押し付けられて水圧で圧死するかと思いました。
部屋はちょっとした子供プールのようです。
寒さが一気にきます。のんびりしていられません。

「ええと・・・脱出するには螺旋階段では大きさ的にムリですね」

『ご、ごめんなさい。怒ってます??大丈夫ですか!?』

立ち上がってシーラさんに「いえいえ」と怒ってます??に否定してから髪をかきあげます。
服が水を含んでとても重いです。歩きにくいです。
でも、この水が下へ流れているので奴隷戦士がくるのはすぐでしょう。

「シーラさん。ちょっと無謀なことをしようと思うので、手伝って頂きたいのですが・・・」

『なんですか?ああ、そんなに震えて!!私も冷たいし!!
ああ、魔女さんが風邪引いてしまう!!』

「風邪どころではなく、このまま外へ出たらこの寒さでは凍死でしょうね」

『と、凍死!!あわわ!!っどうしましょう!!!』

シーラさんは手足の鰭をバタバタ動かします。
その度に波のように私に当たるのですが、言わないでおきましょう。
精神的に混乱しやすい方とお見受けしましたので・・・

「では、外へでましょうか」

『そ、外!凍死するって言ったじゃないですかーー!!』

ザバァっと体に波がかかって、水の中へ顔から落ちてしまいました。
鰭が真正面に見えます。
どうやら抱きしめた形になっているようです。
鰭を掴ませてもらって立ち上がりました。

服が重いです・・・

『駄目です!服が乾くまで外へでちゃいけません!!』

「ええとですね。そうしたら奴隷戦士が来てしまうので、今から術を使おうと思ってます」

『どんな術ですか?』

長い首をくねらせて、シーラさんの顔が私の顔に近づきます。
こうしてみると巨大です。
蒼い目がじっとこちらを見つめます。見返しながら言いました。

「この湖を元の湖に戻そうと思うのです」











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