空に浮かぶ遺跡に入るには、その遺跡の真下まで移動します。
遺跡は風に乗ってふらふらしているので・・・勘で見つけました。

見つかるものですね

その真下に立って、首を数回振って合図を送ると足元に魔方陣が浮かび上がります。

『な、なんだ!?』

オオトカゲさんが驚いて逃げようとするのですが、すぐに転送されて無事一緒に遺跡の中に入りました。






一階はダミーということで・・・
一階から二階へあがる階段などはありません。

転送された場所はサラマンダーさんのすぐ目の前。気持ち良さそうに眠っている姿があります。
くるん、と丸まっています。
大変、可愛らしい寝方だと思います。

「さてと・・・」

サラマンダーさんの封印を解く前に制御室に行きましょう。

『ま!魔女!?どこ行くの??』

『僕らを戻してくれるんじゃないの!?』

目を白黒させながら、ドラゴンさんとオオトカゲさんが慌てています。

「ちょっと待っててくださいね」

肩越しに言うと、ブーイングのような言葉が飛んできましたが、階段の途中で聞こえなくなりました。
でも、ワニさんが肩に噛み付いているので少し痛いです。












一階に満たない短い階段を登ると、呪文の文字や魔方陣の図面のような模様の壁が目に入りました。
丸い小さな小部屋の中央には突起のように突き出した一本の装置があります。

『ここはなんなの?』

肩から口を離して、ワニさんが聞いてきます。

「ここは遺跡を浮かせている風の呪文を発生させて安定させている場所です」

突起の装置は腰よりも低く、少ししゃがみながら、昨日取って来た球体をセットします。
カチと小気味良い音がして、ウィィンと二本の棒が球体を挟み込むように伸びました。

ヴォォォォォォン

地響きのような悲鳴を上げながら、二本の棒からパチパチと音がし始め、轟音の音に変わりました。
突起にいくつもの筋が浮かび上がり、部屋全体に広がります。

『いま、なにやったの?』

「風を起こす補助装置を起動させました。サラマンダーさんが復活したらすぐに魔法がストップして落下します。
コンマ何秒の世界で全てするのは難しいので、これを動かしていると多少滞空時間があるから慌てなくても良いですし。
きっと、奴隷兵士さんが怪鳥に乗って飛んでくるので、すぐ高度を下げると攻撃されます。
逃げるまで攻撃は受けたくないですから」

綺麗に去りたいですし

『わぁ。魔女凄い。さすが策士、狡猾だぁ!』

「・・・・・どうも」

褒められているのか貶されているのか微妙な感想ですねぇ

呪文は正常に動き出したみたいです。
見届けてから元の部屋に戻りました。

『・・・・』

ドラゴンさんとオオトカゲさんが不機嫌そうにこちらを見ます。
小さな子がはぶてているような姿で、可愛らしいような気もします。

説明しなければなりませんね

「あの部屋は・・・」

『風の制御装置なんでしょ〜。聞いたもん〜。でも、行く前に説明して欲しかったな〜』

ドラゴンさんがプンプン怒りながら言っています。

あれ?説明していなかったはずなのですが・・・?
素っ頓狂な顔をしているとオオトカゲさんが尻尾を振りながらワニさんを示します。

『全員、繋がってるから、一つのことでも全員繋がる。
これ、魔女は知らないこと』

にやぁ・・・と三人同時に笑いました。

「・・・・」

私は苦笑を浮かべながら頬をかきます。
一本取られた気分でした。















「・・・!」

しょぼしょぼ、と目を開けるのではなくて、いきなり”カ!”と擬音が出そうな勢いで目を開けたので
心臓が止まるかというくらい驚きました。
のっそりと体を動かしながらサラマンダーさんが起き上がります。
背筋がピンと伸びると背中の突起部分から翼の柔らかい皮膚が
蝶の羽化のように広がっていき、伸びきったところで

バサ

風圧を立てながら大きく広げました。

長い首と小さな頭がこちらを向きます。

『あ、偽魔女』

やっぱり・・・ワニさん、オオトカゲさん、ドラゴンさんを足して三で割ったような性格です。

この場合は同意するのが一番良いでしょう。
私は記憶があっても『魔女』ではないのです。

「はい。こんにちは、サラマンダーさん」

『うわ!”さん”付け!キモ!!』

「・・・・・」

サラマンダーさんはワザとと思えるリアクションで唾を飛ばすようにぺっぺと舌を動かしています。
でも、”さん”を飛ばすと絶対に怒るので無視しておきましょう。

「唐突ですが、この遺跡の封印が解かれた事を王は知っているでしょう。
私たちを殺すために追っ手が来ますので、一時避難という事で彼方へ・・・
私の世界へ一緒に逃げて欲しいのですが、どうでしょう?」

『説明しなくたって、んなこと、当の昔に知ってるって』

三人の時の意識を持っているはずですから知ってると思えました。
ですが、念のために言ったまでです。
後で何も言わなかった、と言わせないためにも・・・

「話が早くて助かります。では、行ってもらえますか?」

サラマンダーさんの表情がつまらなそうになっています。

『・・・偽魔女がつれてってくれるんじゃねーの?俺が連れてくの?』

私の目の前に座ってブゥブゥ文句を言いたそうにしています。
表情がどう揚げ足とってやろうかと狙っているのが見え見えです。
本当に、記憶の通り、やんちゃな性格を持ってますね。
下手をすれば相手の逆鱗に触れる性格です。
修一さん達のところに連れて行って大丈夫でしょうか・・・?

その点でかなり不安になってきました。

それと、扉です。
サラマンダーさんが動く気が無いのなら仕方ないですね。
この中だと少し空間を掴みにくく、難しいのですが
シーラさんよりも一回り小さいので何とか時間をかければ出来るでしょう。
それまで追っ手に邪魔されなければ良いのですが・・・

考え込んでいるとサラマンダーさんがニヤニヤしながらヒューと口笛を吹きます。

・・・どうやって吹いたんでしょうか・・・?器用ですねぇ

『当てにしてたのか?俺の力・・・そーなんだろ?な?な?』

目が異様にギラギラしています。
そうではない、と正直に言っておきましょう。

「いえ、そうではないんですけど・・・
ちょっと難しいのですが、この中でも扉が作れると思います。
この前シーラさんの時の大きさまでなら何とか作れますが、少々時間がかかりますけど
何とかなるでしょう。はい」

『・・そんだけ?』

「はい。そーですけど?」

少し沈黙が流れました。
またサラマンダーさんは面白くなさそうな表情に戻ってプイっとそっぽを向きました。

『なら、そーすりゃいーだろ。
さっさとしろよ』

「では、少しお待ちくださいね」

『・・・・・・・・・・・・』

ググググっと空間を持ち上げてねじってみます。
封印場所は強固に創っているので硬くて重い感覚がします。
無理やり穴を開けるように力いっぱい捻ると小さく穴が開き始めました。
それはいつもくぐる扉の外側のように黒くキラキラしています。

『わ。何それ・・・?』

サラマンダーさんが興味を引かれたようにそー・・と遠慮がちに手を伸ばして触ろうとしました。
手の上に乗っている黒いキラキラを指で突付こうとしているみたいです。

「まだ触ったら駄目で・・・・・え?」

グラ・・ン

景色がゴムのように残像を残しつつ揺れました。

ドォン!!ドォン!!

爆音が続きます。

ザシュ

ナイフで切られたような痛みと滑っとした生暖かい感触が指先から発生しました。














「思ったより早かったですね」

攻撃で遺跡が揺れています。この遺跡も歴史的価値があるのですけど
攻撃のときはお構いなしでしょう。

指を見ると左手の人差し指第二間接から血がポタポタ流れています。
サラマンダーさんの爪での引っかき傷でしょうが、この程度で済むなんて凄いです。
指、もしくは手を丸ごと持っていかれてもおかしくなかったです。

・・・自分で考えてちょっとゾッと背筋が凍りました。

滴り落ちるんで舐めました。鉄の味がします。

『あの・・・・・・』

サラマンダーさんの上ずった声が聞こえて向きました。
自分の指先と私の手を交互に見比べて

『そ、それ。俺のせいじゃねーからな!揺れて、手がちょっと滑って・・・その・・・』

ドォンとまた音がしました。
グラリグラリと船のように揺れ始めています。
高度が少し低くなってきたのでしょう。
思ったよりも追っ手が来るのが早かったのと、高度が下がるスピードが速かったようです。
今の状態では扉を作りにくくなります。
さて、どうしましょうか・・・

ダンと近くで音と共に揺れたので驚きました。
サラマンダーさんが威嚇するように首をこちらへ向けています。

『聞いてんのか!?』

「はぃ??」

何をでしょうか?

『に、偽魔女の癖に怒ってるのか!?
俺が悪いんじゃなくて、揺れたのが悪いんだ!!』

責任転換をしている話みたいです。

・・・・・・・・・ええと。
それしか考えられないのですが・・・何をムキになっているのでしょう?

きょとんとしながら同意しました。

「え?あー・・・そうですけど?タイミングが悪かっただけですが・・・?」

すると、サラマンダーさんはとても傷ついた表情をして目を伏せました。
逆に尻尾がイライラしたようにブンブン動いています。

何か悪いこと言ったのでしょうか?

「どうしました?サラマンダーさん。
扉が途中で消えたのがショックでしたか?また創りますから安心してください。
ですがあのキラキラは完成してから触って頂かないと
空間をねじっている途中なのでとても不安定ですぐに消えてしまうんですよ」

『こいつ、ひでぇ・・・』

ぼそりとサラマンダーさんが呟きました。
その意味が理解できず「?」と浮かべていると噛み付く勢いで怒鳴りました。

『ひでぇひでぇひでぇ!!この魔女ひでぇ!!
なんで俺の力あてにしてくれねーんだよ!眼中にねぇのか!?
折角、久しぶりに目が覚めたら魔女はもう死んでて・・・・
で、魔女ソックリのおまえが現れてどんなこと言うかと思ったら
いかにも”一人でちゃっちゃとやっちゃいます”な感じで全く相手にしてくれねーじゃねぇか!!
俺だって聖獣なんだぞ!!こいつら蹴散らすくらい訳ねぇんだ!!
なんで頼ってくれねぇんだよ!!馬鹿!人でなし!自分勝手!!薄情者!!』

ぜぇはぁ・・と息を整えるためにサラマンダーさんは黙りました。
また遺跡が揺れます。
私は今聞いた事を反芻させながら行き着いた答えを言いました。

「つまり・・・・手伝ってくださる。ということですか?」

『やっぱこいつひでぇーーーーー!!!!』

・・・外れだったのでしょうか?
イライラしつつのた打ち回るように床を叩いています。

サラマンダーさんが本当に何を言いたいのか不明ですが、いつまでもそのことに関わっている場合では
ありません。追っ手がすぐ近くに迫っているようです。やはり怪鳥でしょう、鳥の羽ばたきが聞こえてきます。
のた打ち回っているサラマンダーさんに呼びかけました。

「サラマンダーさん、ここも逃げないと危険です。
申し訳ありませんが、一緒に外へ脱出して追っ手を振り切りつつ逃げたいのですが・・・」

『魔女が呪文使うのか?飛翔みたいな呪文』

異様に目に影があります。何故でしょう・・・

「いえ、扉に集中したいので、サラマンダーさんに連れて行って欲しいのですが」

『・・・・俺の力が必要なのか?』

「はい」

サラマンダーさんの目に光が戻ってきました。

『どうしても?本当に??』

「はい。お願いします」

ギラギラとサラマンダーさんの目が輝きはじめました。
どうやら機嫌が直ったようです。一体何が原因で不機嫌だったのでしょうか?

『し、仕方ねぇなぁ。協力してやるかぁ・・・』

言いながらガシと体を掴まれました。
大きな手です。
指は三本で、器用に体を支えてくれました。




・・・ですが、かなり怖いのです。
こう、怪獣映画で必ず掴まる人の恐怖が手に取るように理解できたような気がしました。











外は怪鳥の群れが大勢居ました。
乗っているのはどう見ても生きている兵士の方々。
これは攻撃したら死傷者がでる可能性が大きいです。
早々に扉を作り、飛び込むしかありません。
私は急いで空間をねじります。

サラマンダーさんは下降から家のように飛んでくる怪鳥達に向かって楽しそうに叫びました。

『オラオラ!!全員焼け落ちな!!』

言うな否や強烈な火炎を口から吐き出します。
これが火炎放射というものなのでしょうね。
炎の距離は半端ではなく、大多数の怪鳥が火に包まれます。

私は声にならない悲鳴をあげました。
たくさんの人が死んでいきます。

それでもめげずに怪鳥達は飛んできます。
サラマンダーさんはまた炎を吐き出しました。鳥が火に包まれます。

「サラマンダーさん!駄目じゃないですかぁぁぁぁ!!」

ウプと喉に詰まったように咳を一つしました。

『・・・?魔女?』

きょとんとしているサラマンダーさんに続きを言います。

「死傷者がたくさんでるじゃないですか!?扉が完成しました!あそこへ向かってください!」

『はぁ?まだ敵がたくさん・・・』

「戦わなくてもこちらが逃げれば良いのです!相手は追ってこれません!
まして、相手が怪鳥さんなら攻撃を喰らわずに逃げ切れるはずでしょう?
無駄な争いは駄目です!!」

バサバサと羽ばたいて扉に向かいます。
そのままチラリとこちらを見ました。

『全部倒しちゃ、駄目?』

「駄目です!自分がされたら嫌なことを相手にしたらいけません!」

『・・・怒ってる?』

「怒ってます」

『・・・・・・・・』

サラマンダーさんはそのまま黙って、多少落ち込みながら扉の中へ入りました。
少々、怒りに任せてキツク言ったのかもしれません。
後で謝っておきましょう・・・











彼方の世界へ着きました。
また夕方です。急いで帰らないといけません。
サラマンダーさんはぐるりと町を見て、つまらなそうに呟きます。

『汚い町』

ファルコンさんと似たようなことを言っています。

誰も居ない場所へ降りました。
手短にこの世界を説明するとサラマンダーさんの人の姿になりました。
幼い子供です。

『これでいーのか?』

「はい。どこからどう見ても人間です。可愛いですね」

褒めたのに明らかにムッとされました。

『で?俺は魔女と一緒にいればいーの?』

「そうですねぇ・・・一応修一さん達に知らせたほうが良いのでしょうが・・・」

『修一?』

「ロゼットさんの記憶を持つ方です」

『ロゼット!?』

キランとサラマンダーさんの目が輝きました。

『じゃ、ユニコーン居る?』

「はい、いますよ?」

『じゃ、行く。場所教えて』

教えて、私は一回帰ってから行きますと伝えておいてください。と伝言を言いました。
今回は行かなければ、今後の対策とかも参加したいですからね。


でも、気になります。
あのサラマンダーさんの生き生きとした表情・・・

ユニコーンさんと関係があるようですが・・・
あの表情の時は悪いことを考えている時の顔です。


心配ですねぇ
















各々、感想を思い浮かべつつ普通に仕事をしている。

夜遅くなって、またドアが開く。

「いらっしゃいませ。ですが、もうすぐ閉店・・・」

「こんばんは。お久しぶりです」

ペコりとお辞儀をして現れたのは魔女。



「今後のことについて、少々相談しようと思います。
今日はその日取りを聞きに来ました」























ボォウ

封印が全て解除された白い光が魔女の姿を浮かび上がらせる。
魔術師は慌てた様子で報告を始めた。

簡潔に封印が全部解かれたことを伝えると
王、ギュストは大きな音を響かせながら立ち上がった。

その表情は怒りと恐怖に打ち震えている。

亡霊達がこれ見よがしに民族の襲撃の邪魔をし
隙あらばギュストを失脚させようと城を荒らしに来る。

果ては亡き全王の血を引く子供、つまりランシャーマの子供を次の王へと企てている。

目の前をチラチラ鬱陶しいほど飛び回る亡霊たち

彼らへの抹殺を早々に行わなければならない。
やはり、ずっと送り続けて正解だった。

「王。奴らの中に想像を超えた魔術師が存在するのは確実です。
あの『魔女』が行った封印を解くとは、並大抵の魔術師では不可能」

「だまれ!」

「ひぃ」

ギュストはギリギリ歯軋りをした。

『魔女』の封印を解けるのは『魔女』しかいない

つまり、彼方で魔女は蘇っているはずなのだ。
それが、亡霊と一緒になって封印を解いているに違いない。

更に歯軋りを加える。










何故だ?

ギュストは呻くように心に問いかけた。

「王・・・」

魔術師は次の指示を求めている。
ギュストは亡霊抹殺の外にもう一つ条件を加えた。

「亡霊の中に魔術師と思える者が居た場合。生きて捕らえよ。
何が何でも『王』の前につれてくるのだ。
その際腕の一本。二本は傷つけても構わないが
決して殺さずつれてくるのだ、よいな」

魔術師は同意の姿として深々とお辞儀をする。
その姿を見ながら席に座って、まだ見ぬ彼方を遠く見る。



魔女よ・・・






















おまえは亡霊を暗殺するために、彼方へ送り込んだのだぞ?

























後書



はい!こんばんは!!
「うらぎりまじょ」
序盤(?)っぽいもの全て終了しました!
それにしては絶対続くだろうっていう終わり方☆
頭の中では続いてます
終わりまで続いています
亡霊の方の活動もあります


でも、しばらくお休み、ということで・・・


さてと、とにかく終わったーーー!!ってしか感想がありません。

魔女は結局名前出せなかったし
そんなツッコミもこなかったから一生魔女でもいっかな〜って思ったけど
やっぱ駄目だろ?
と己にツッコミがきたし
折角名前あるんだからプロフィールで出してあげようと・・・

でもプロフみて驚くかもしれない
魔女はまだ12さいだったし

あの物言いで12とは思えないけど、12の設定なんです。
知識ばかりじゃなくて、生い立ちによって精神年齢が上がってるんですけどね

そっちの家族の方と亡霊達が実はすこしだけ繋がってたりするから

裏設定は凄いよ?

ギャグだよ・・・

ともかく、ですます調のキャラで主役は初めてで
わりと変わらない性格になってたから満足してます。


では、最後に一言魔女さんから・・・

「え?最後ではないのでしょ?
また時間があるときに続きを話しますのでよろしくお願いします


”あ、出来たらで構わないので感想などあれば教えてくださいね”

・・・これでいいですか??(マイクに向かって)」





以上!



2004/04/04








次のページへ続きます☆