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あれですね
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事の起こりはきっとギュストが王になってからでしょう
『魔女』が王の指令で封印していた四匹・・・いえ、四人の聖獣を解放させた後
私は修一さん達と一緒に話し合いをしました。
彼らの活動目的と内容は至ってシンプル
一つはここ、日本
強いて言うなら自分たちが暮らす場所に暗殺者を送り込まないようにし
平穏に暮らすこと。
一つはギュスト王政の縮小
運が良ければ失脚までやるでしょうね。
ですが、皆さんは前者で述べたとおり平穏に暮らしたい
その願いが一番強いようです。
少し安心しました。
さて、問題はギュストにどうやって暗殺者を送り込まないようにするか?です
これまで皆さんは休みの日とかにエルスへ出かけて
奴隷戦士を減らしてみたり
侵略を妨害してみたり
魔術師や重役に脅しをかけてみたり・・・
色々活動なさっているみたいです。
でも、それにより逆に王に危機感を強く抱かせてしまったようで
奴隷戦士を送り込む量が段々増えてきているみたいです。
もともと、奴隷戦士とは死した髑髏に術をかけ
生前の姿にして従える術です。
そう簡単に・・・優秀な戦士の頭蓋骨なんて落ちていませんし、埋まってもいません。
「それについて、魔女はどー思う?」
竜司さんに促されて、私は咄嗟に渋い顔を浮かべました。
考えられることは一つしかありません
「・・・あまり言いたくはありませんが・・・
生きている人を殺害して術を施す方法が一番効率があると思われます」
「やっぱり」
友恵さんがため息混じりに頷きました。
どうやら同じ事を考えていたようです。
「なぁ、魔女。奴隷戦士をここへ送るのって、どうやるんだ?」
隆正さんが真後ろから聞いてきたので少し驚きました。
いつの間に立ち上がったのでしょう。
よく見れば、先ほど座っていた位置にユニコーンさんが座っています。
彼に席を譲ったのでしょう。
「ええと、一つの髑髏に一人だけ送ることが出来ます」
「え?そうなのか?てっきり何体も一度にやってくるのかと思った」
隆正さんの感想と同時にシーラさんがパタンと本を閉じました。
数の数え方の日本語とタイトルがあります。
『それはないです。そもそも彼方送りは高等な術を持つ、知識や技能を持ち合わせる優秀な方を
死後の後も己を高める旅に出す為の儀式です。いつの間にか暗殺者が送られて来ていますが・・・
そもそも!この儀式でここへ来ることが出来るのは知識だけなんです。
全く、どうしてこぅ、神聖な物を次々と変えようとしているんでしょう!』
シーラさんが声を荒げて怒っています。
「・・・なーんか引っかかる」
修一さんの呟きを竜司さんが一度聞きました。
「何が?」
「さぁ?分からないけど・・・なにか・・」
うーん、修一さん少し勘が良いのかもしれませんね
必要ないので教えませんが
「ねぇ、魔女ちゃんホント?」
「そうですね。彼方へ送る儀式は神聖な儀式です。今でも一部の民族の長等が
送られていると思いますよ?」
「へ〜。それじゃぁ、奴隷戦士と彼方送りってのは別物?
そこら辺良くわからないんだ〜」
「別物です。
奴隷戦士は髑髏を使用して姿を作ったまま彼方へ向かわせますが
彼方送りは肉体に術をかけてその魂・・・記憶知識だけ送り出すと後は肉体を葬儀します」
説明している途中でドアがパタンと開きました。
ああっと、言い忘れましたが、ここは喫茶店ではなく修一さんのお部屋です。
仕事中邪魔になると言われ、ここで集まって相談していますが
きちんと整頓された一人部屋にしてはとても広いお部屋です。
『おい!やっぱ当たってた!』
息を切らせて駆け込んできたのはファルコンさん。
その後で怪訝そうな表情のサラマンダーさん。
先週からエルスと行ったり来たりしながら情報収集をなさっています。
「それじゃ、他の奴らを無理矢理集めて!?」
身を乗り出すように修一さんと隆正さんが同時に言いました。
ファルコンさんは頷きます。
『ああ、集められてた。経路は四つ。リメック村から王都へ、サイガ経路と
後はリバーズ経路とトプリンク経路だ。それぞれ魔術師や戦士なんかも一枚噛んでそうだ』
『ちなみに、もー出発してるぞ。といっても一番近い村からでも七日。
アレだけの人数に加えて予断を許さない王都の警戒用なら、強力な魔術師を出すことはないだろーな』
「それじゃ、どーする?修一君。今から救出しに行く?」
友恵さんが首を傾げました。
「ああ、その方が良いだろう。途中の道で殺される可能性もある。
四経路を使うって事は、四組に別れて行動になるな」
「そうですね。同じタイミングで一度に行えば警戒されずに済みます」
「言われなくたってんなこと知ってる」
「・・・はい」
冷たくジト目で言われました。
『じゃぁ!組み分けはこれね!!』
シーラさんがなにやら紙切れを出して皆さんに見せました。
あれは・・・・・・
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全員、脱力したように・・・いえ、友恵さんだけシーラさんと意気投合しています。
「あみだくじ!!わぁ!おもしろそー!!
シーラさん、それナイスアイディア!!」
「いや、違うだろ・・・」
隆正さんが変わりに訂正を入れていますが、お二人は聞いていないみたいです。
『でしょ〜!こうやってクジをした方が公平で尚且つすぐにグループが決まるじゃない!
この世界にもこーんな便利なものがあるって感激したわ〜!』
『なんだ?その紙は?』
サラマンダーさんが不思議そうに見ながら聞いてきました。
『これはね。中々決まらないときにパッパと決めるために編み出された解決方法の一つで
人数が多い時に特に役に立つものなのですよ。この上側に名前を書いて
下側に決めたい事柄を書いて適当に線を引いて上からなぞると自動的に決まってしまうんです。
しかも拒否権なし!絶対命令にもなるんですよ!!』
・・・なりません。
誰でしょう、シーラさんに半分でたらめな「あみだくじ」をお教えしたのわ・・・
「ですよね!こう悩んでいるときにドバ!とスパ!っと決定するのって気分良いですもん!!
それにしましょう!!皆、どこに名前書く?」
「あ、あのですね・・・」
溜まらず、私はお二人に水を指しました。
「拒否権も絶対命令にもなりませんけど。
そうして決めた場合、戦力が一方に固まる可能性もあるので
止めたほうがよろしいのではないかと・・・?」
「そうだな。俺も力の配分はある程度均等している方が良いと思う」
隆正さんも同意しています。
本当に疲れた様子です。私もきっとあんな状態なんでしょうね。
「そうだな。あみだくじはなし」
「その方が良いね。修一と魔女が一緒のペアになると必ず失敗しそうだし」
「そーですね」
苦笑いして頷きました。
「それじゃ、シーラさん。お留守番と魔女ちゃんの事を考えつつ
あみだクジをしよっか」
「おい!!」
『はい!ではでは。皆さん名前を書いてくださいね。
この一度だけ、やってみたいんです。どんなのか・・・協力してください!
もし書かなければこのちょっと肌寒い春の陽気の中、水泳していただく事になりますから
ご注意ください』
本当に拒否権がないようです。
仕方なく名前を書いてみました。
あみだくじ結果はでしたねぇ・・・
あの後の一騒動を思い出して頭痛を思い出します。
結局もめて、現在の形に落ち着いたのですが、長くなるのでまた別の機会に・・
それよりあの馬車みたいなのが奴隷を運んでいるようです。
周りには十人ほどの戦士と奴隷戦士です。
さてと、そろそろ中央に来ましたので術を発動させることに致しましょう。
パチン
指を鳴らすとそれを合図にあらかじめ地面に描いていた魔方陣が姿を浮かばせました。
淡い黄色い色を浮かび上がらせると
歩いていた運び屋さんはふらふらとした足取りになると
すぐにバタバタ倒れました。
眠らせる呪文です。
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「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
目の前で真っ黒く墨なる人間。
折角戦士たちが寝始めて、ドアが開いて、さぁ、逃げられると思った矢先
黒い雷が走っていた二人を襲った。
肉のこげる匂いなんて無い間に二人は墨になる。バタンと倒れると
頭蓋骨だけが綺麗に残った。
「そうね。ヒトを運ぶよりも骨を運んだほうがすぐに王都に行けるわ」
頭を覆う布から微かに紅い唇が笑みを浮かべる。
「どうせ、死んで私たちに仕えるなら、今死んだって大差ないわよね?」
「うわぁぁぁ!」
最後に乗っていたやつが絶叫を上げながら駆け出していく。
それを黒い雷が走って追いついた。
悲鳴さえ聞こえない絶命だった。やはりゴロンと頭蓋骨だけが綺麗に残る。
冷や汗を流しながら魔術師を見た。
あれが王都の魔女なのだろうか?やはり、復活したのだろうか?
だとしたら、前に見たのは一体・・・?
「あら?貴方たちは逃げないのね?
足がすくんだのかしら?
でもね。もう遅いわよ?一度逃げちゃったってのもあるし
生身のまま運ぶのはめんどくさいの」
身勝手な事を言ってますね
「だから、このまま死んでね」
黒い雷のようです。
雷・・・
ということは、彼女はギュストの・・・
考えるのは後に致しましょう。
今は
バチっと奴隷さん達の目前で雷を打ち消しました。
別に降りていません。
魔方陣を飛ばして盾にしただけです。
「!?なに!」
ローブに身を包んだ魔術師さんが驚いた声を上げました。
また雷を出しますが防ぎます。
「あれは!?」
「?」
驚きました。
てっきり一番最初に私を見つけるのは魔術師さんだと思っていたのですが
どうやらあの額に刺青をした青年のようです。
何かの術師さんでしょうか?
「一体・・・!?」
魔術師さんの意識が完全に奴隷さん達から外れました。
「今です!お願いします!!」
声と共に奴隷さんたちの体に風が纏わり着きました。
皆驚いてキョロキョロします。
魔術師さんは上を見上げて愕然としたように口をあけました。
それを見て他の奴隷さんたちも上を見上げます。
上には・・・ファルコンさんが羽ばたいています。
『その呪文は獣のように野を駆けることが出来る!逃げろ!』
掛け声と共に、一斉に逃げ始めてくれました。
「く!!」
魔術師さんが雷を奴隷さんやファルコンさんに向けます。
勿論私にもきますが
全て防がせてもらいました。
あんな危険な雷を誰にも当てるわけにはいきません。
「・・・!!」
魔術師さんは呪文を使うのを止めました。
肩で息をしています。
前方に居た奴隷さんたちの姿はもうとっくに消えて
上空を飛んでいたファルコンさんも姿を消しています。
私は、まだ魔術師さんの様子を見ています。
彼らの後を追わないように気力を果てさせなければなりません。
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「あなた・・・何者なの?」
『他の者が心配か?』
ファルコンさんが聞き返してきました。
上空を移動してもらっています。目指すは一番魔術師との相性が悪い
隆正さんとユニコーンさんのグループです。
「はい、とても心配です」
『隆正?だったかな?今の名前。あいつもユニコーンもそう簡単にやられる奴ではないぞ』
「それは解ってます。でも気になることがあります」
『気になること?』
「異変を感じてすぐに強力な方を送り込んでいます。
時間のロスがほとんどありません。まるで・・・ある程度予知しているような気がします」
こちらの意図を読み始めているような予感がします。
高名な占い師でも出現したのでしょうか?
時期的にはそろそろですし・・・
これは調べてみる必要があります。
「それに・・・あの魔術師さんは黒い雷を使っていました。
”聖なる邪悪な者(クァトル)”
あの方が関与し始めたのではないかと思います」
『あー・・・そーだろーなぁ。
この状況ならあっちに協力するかも知れねぇよなぁ・・・
これだからタチが悪ぃ
清らか過ぎて・・・あいつはホンット邪悪なんだよ』
重いため息を吐くようにファルコンさんが呟きます。
私も同じようにはぁ・・・とため息を吐きました。
「ですよねぇ。本当に困りました。
そもそもキッカケはあちらなのですから・・・探し出してきちんと説明しなければなりません。
でないと・・・最悪の場合」
声が震えるのが分かります。
失うものが見えるような気がしてなりません。
それだけは絶対に避けたいです。
『まぁ、気にするな。そん時はそん時だ。
ユニコーンは・・・取り乱すかも知れねぇけどな』
言いながらケタケタ笑っています。
「ありがとうございます。
そうならないように頑張ってみます。期待しててくださいね」
『なら、安心だ。ところで魔女。
さっきので聞きたい事があるんだが・・・
あの魔術師に何も言わずに去った理由はあるのか?』
「そうですねぇ・・・」
ファルコンさんの問いかけに、私は目を瞑りました。
ゆっくりと目を開けます。
「あります。”魔女”ならあの魔術師さんと口を聞くのも嫌だと思われますし。それに」
『それに?』
「今はまだ、教えたくなかっただけです」
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