日曜日の早朝、お小遣いが溜まったのでミックスジュースでも飲ませて頂こうかと
佐鳥さんの喫茶店、『若葉』に赴いたときです。

お店の前で回転準備の為でしょう、玄関を箒で掃除してらっしゃる方を見つけました。


・・・・・・・・・・・・・・。



「うわわわ!!修一さん!どうしたんですか!?その怪我は!」

「やかましい!!早朝から叫ぶんじゃねぇ!」












「怪我をしている方が掃除をしていたら駄目じゃないですか!!」
慌てて箒を取り上げました。修一さんは痛そうに顔を歪めながらあっさり箒を渡してくれました。
少々、乱暴にしてしまったようです。
準備中とかかれた札が正面ドアに掲げてありましたが、失礼とは思いつつ
千郷さんを呼ぼうと中へ入ることにしました。

「おら。勝手に人ん家入いんな!」

後で修一さんの舌打ちが聞こえましたが、完全に無視します。
ドアを開けると珊瑚さんがカウンターテーブルを布巾で拭いていました。
カランと音がなってこちらに振り向くと少し驚いて微笑みました。

「おはよう。いらっしゃい魔女さん」

「おはようございます。珊瑚さん。あの、修一さんなんですけど…」

怪我の事と掃除の事を聞こうとしたのですが、珊瑚さんは更に遠くに視線を走らせました。
背後で修一さんが「よ」っと挨拶するような声が聞こえて、肩越しに振り返りました。

「あと、竜司君。おはよう」

「おはようございます。竜司さん」

学生服姿の竜司さんが来ていました。
箒を持ったまま、三人でお店の中へお邪魔します。

「魔女、箒返せ。まだ掃除終わっちゃねーんだから」

「駄目です!」

箒をしっかり体で護りながら、修一さんから遠ざけます。
怪我人は安静にさせなくてはなりません。こんな労働をさせてはいけません。
また、ちっと舌打ちが聞こえました。

「当番なんだって」

「それでも駄目です。私が変わりにやっておきますから!!」

「魔女さん言ってやって。この馬鹿息子は妙な所で頑固だから。父親の言うことなんて聞きやしない。
自ら率先して手伝うのは良いことなんだがなぁ〜」

珊瑚さんは苦笑を浮かべながら
後は任せた!!と意思表示をしてまた拭き掃除に戻っていかれました。

「魔女…いい加減に」

「修一。ほら座りなよ。ブツブツ非常識なセリフ言う暇があったらね」

竜司さんはぐいっと修一さんの体を強引に引き戻し、椅子へ座らせました。
立ち上がらないように肩をぎゅっと押さえると

「いてー!解った!解ったから!!」

「大人しくしなきゃ。傷口また開くぞ?」

「お前が開けてるだろ!解ったから!大人しくしとくから!!いてててて!」

傷口に触れたのでしょうか?かなり痛がっています。
解ったという言葉を聴いて、竜司さんはにこっと笑うと反対側の席へ座りました。

竜司さん、なんだか扱いが慣れているような気がいたしますし
ちょっと…思っていた性格とは違うような方なのかもしれません。

ともかく、落ち着かれたようですので、怪我の経緯を聞くことにいたしましょう。

「修一さん、そのお怪我はどうなされたのですか?」

聞くと、明らかにムッとされた様子で、黙ってしまいました。その代わり竜司さんが申し訳なさそうに言います。

「俺を庇って怪我したんだよ。少し、考え事してて、それで不意を突かれたのを変わりに…」

「俺がどじっただけだよ。第一、そんなに気にする事じゃねぇだろ?死ななかったんだし
友恵さんがある程度回復してくれたし、少しずつやってもらってるし、あと二週間で完治するさ」

そういって、落ち込む竜司さんを元気付けるように、明るい笑顔を浮かべました。
こちらもつられて少し微笑むと

「なに笑ってんだよ」

睨まれました。
ですが、怪我の割にはお元気そうで何よりです。

「突っ立ってないでさっさと俺の変わりに掃除でもすれば?」

「修一!そんな言い方!!」

「はい!綺麗に掃いておきますね。あと…要らぬお世話かもしれませんが
私も少々回復魔術を扱えるので、必要ならば呼んでくださいね」

「要らぬお世話だ」

「はい。それでは…」

掃除をいたしましょう。くるっと背を向けると、竜司さんと修一さんの声が聞こえましたが

「だからこいつは…もー…」

「いでででで!!」

外へ出ると聞こえなくなりました。
さて、手早く済ませましょう。

「魔女さん。おはようございます。やはりこちらにいらっしゃいましたか」

この声は…シーラさんです。大きな荷物を両手に軽々と抱えて、目が合うとペコリとお辞儀をします。

「おはようございます、シーラさん。掃除をしながらで失礼します」

ペコリとお辞儀を返してお断りを入れると

「はい、そのまま続けていても構いませんよ?今日は魔女さんに頼まれていた物が届いたので
お渡しに参っただけです」

「本当ですか?」

顔を上げて、シーラさんを見上げます。彼女は少し不安そうに微笑んでいました。

「ですが、大丈夫ですか?まぁ、貴女に関してはあまり心配しなくても良いことなのかもしれないですけど
今回は場所が場所ですし…見つかればどうなるかわかりませんよ?
それも、皆さんに内緒で行うのでしょ?」

「大丈夫です。無茶はしませんし、町を歩く程度ですから」

微笑んで、塵取りでゴミを回収しました。
丁度終わったタイミングでドアが開きます。千郷さんが顔を覗かせました。

「魔女ちゃん。ありがとね。息子の我侭で手伝ってくれて。
どう?ジュース用意したから勿論飲んでいくわよね」






















真っ暗の通路を歩いています。久しぶりの使用なので湿気でカビの匂いが鼻につきます。
出口に差し掛かると魔術の鍵が作動し、岩がスライドしました。
日差しに目を奪われそうになりながら何度も瞬きをして、ランプの火を消します。
出口から這い出て元に戻し、両足で立ち上がります。
眼下には壮大な景色が広がり、その中央にすり鉢上の土地が見え、中央の出っ張った部分に大きなお城がそびえていました。

あれが、王都です。

今回は黒い雷の様子も含めて、王都内の町での聞き込み調査を行うことにしました。
人の噂話は尾びれ、背びれはつきますが、大抵真実が捻じ曲がったものです。
いくつか候補が浮かび上がったらきっと真実にたどり着くでしょう。

知りたいことはいくつかありますが、大まかには
まず、クァトルが本当に力を貸しているかどうか
そして、占い師が存在しているのかどうか
王都の体制がどうなっているのかどうか

でしょう。あまり手を広げていても仕方ありません。
絞って簡潔にして量を多くいたしましょう。

トボトボと道を歩いていると、後方から鳥の足音が聞こえました。
商人が飼っている移動用の怪鳥、ヒトコブフタトウです。目隠しをされ、商人の手綱を元に走っています。

「すいませーん!」

大きな声で呼びかけると、ヒトコブフタトウが止まりました。少し身を屈めると商人が見えます。

「なんだい?」

「どちらへいかれますか?」

「王都だが?」

「あの、ぶしつけで申し訳ないのですが、急ぎの用がありまして、王都まで乗せていっていただけないでしょうか?」

頼むと、商人はジロジロ見ました。
やや間を空けて

「その服だと、王都の魔術師の小間使いって所か…お得意様だなぁ。
よし、乗せてやる。手を貸しな」

「ありがとうございます」

手を伸ばすとひょいっと上に引き上げられ、後に括りつけられている荷物の上に乗せられました。
肩が外れるかと思いました。
服装のおかげでスムーズに行きました。
今来ているこの服は王都の魔術師の見習い、もしくは小間使い雑用が着ている制服で
シーラさんを祭る民族の一つ、ラーマの民族が作っている魔術用のローブです。
色は真っ青に波の紋章が小さく織り込まれた綺麗な布です。
袖以外は一枚布で着方も多少コツがいります。

「じゃ、振り落とされないようにしっかり掴まってるんだぞ?
だが落ちそうになっても荷物にしがみつくなよ?ぐちゃぐちゃになる」

「はい。ありがとうございます」

こうして、時速40キロのスピードで一直線に進んでいます。少々怖いです。
無事、王都までいけそうです。シーラさんに感謝いたします。













町は活気がありました。
人が行きかいざわめき、貿易し、とても平和そうです。

もし、王が倒れたら、この人たちはどうなるのでしょうか・・・

この国が荒れるのではないでしょうか・・・

皆さんはただこれ以上奴隷兵士を彼方へ送るのをやめて欲しいから
嫌がらせのように奴隷兵士狩りを邪魔しているのですが・・・
彼は、それとは少し違った考え方を持っているようで
皆さんも気づいていらっしゃっても時期ではないので黙っているようで

本当は、どうしたらいいのかは全く解りません。
私も、追われたりするのはほとほと勘弁して頂きたいので
何とかギュストさんの考えを改めていただきたいと思われます。

しかし、彼の性格から考えて、無理なのは火よりも明らか

手詰まりな状態ですが…
皆さんが傷つくのも嫌ですので、こうして情報収集していたのですが


思ったよりも興味深い話が聞く事が出来ました。


「ああ、そうそう。反乱集団だよ。気をつけないと…っていっても、
俺らみたいな普通な奴は一切襲わないから大丈夫さ」

「でも、お譲ちゃんは少し気をつけないとね。
命はとられないと思うけど、魔術師様の使いだから狙われる危険はあるな」

「反乱集団ですか…どんな人達なんでしょうね?」

「はいよ。出来上がり。熱いから気をつけるんだぞ?」

この国名物の餅サンドを頂きます。カリカリのお餅の中に新鮮な川魚の煮た物が入っています。
その場でほお張りながら食べ始めると、彼らは続きを話してくれました。

「そりゃ決まってる。奴隷戦士として連れてこられた奴らを助け出すんだ。身内なんかだろうな」

「あいつらもかわいそうだよ。見ていてさ…」

どうやら反乱集団という団体が皆さんと同じような、いえ、もっと過激な活動をしているようです。

そして

「占い師も新しく来たようだよ?あの塔に幽閉されているらしいねぇ…」

占い師が着ていたこと。どうやら奴隷戦士用に狩られたようですが、才能を見出され訓練され
占い師として使えるようになったらしいです。それも、強制的に

あとは休憩中、座ってお菓子を食べていると魔術師さんたちの話し声が聞こえました。

「またこの間、亡霊戦士が出たの知っているか?」

「ああ、彼方から王を倒そうとしているんだろ?」

「しかも、亡霊戦士は全王の忠実な家臣だって噂だ。コレは一体どうなっているのだろう?」

ゴクリと甘い寒天のようなお菓子を飲み込んで、一回ゲップが出ました。
その後こっそり苦笑します。











休憩後、少し勇気を出して城の周りを散歩しました。
何か変わったことがあるかもしれません。
そう考えてすぐに

「ちょっとちょっと!暇なんなら手伝って!」

まるで、私に向かって話しているようでした。少しキョロキョロすると

「こっちこっち」

魔術師の小間使いさん、それも同い年くらいの女の子さん3人が手を振っています。

「なんでしょうか?」

「これ、結ぶの手伝って。急いでお城に持っていかないとどやされるのよ」

布に包まれていますが、飛び出た形からして魔術道具の一つと思われます。
ポニーテールの人が一生懸命結んでいますが、紐先が短くて悪戦苦闘中です。

「まだー?レックー」

「まだなのー!ちょっと待ってよーー!!」

「貸してください」

あまりにももたついていたのでこちらで結びました。
レックーと呼ばれたポニーテールの少女が「おお」と感嘆の声を上げながら小さく拍手をしてくれました。
少し照れます。

「わー。ありがと〜」

「いえいえ」

「じゃ、お城に持って行きましょう!そっち持ってくれる?」

「はい」

丁度良く、お城に入れそうです。







ガラガラと滑車を滑らせながらお城の中の魔術師が暮らしている二階東塔へ向かいました。
全てが知識のままで、微妙に懐かしいような気がいたします。

「でも私たち運が良いよね〜。丁度手伝ってくれている人が見つかってさ」

こちらを見ながら言っています。苦笑を浮かべるとミツアミの少女が小さく手のひらを合わせました。

「でもごめんね〜。用があったんじゃない?」

「いえ、大丈夫です。丁度暇になったばかりでしたし」

「この本届けたら終わりだから、後で何か持っていこうか。誰の担当?」

「お心遣いはありがたいのですが…
きっとこれが終わるとすぐに戻らないといけない時間だと思われます。
お気になさらずに」

丁重にお断りしたら、三人ともじっと凝視してきました。
一瞬汗を浮かべましたが、ロングヘアーの女の子がこちらをマジマジと見ながら

「ねぇ、別に私たち貴女の主人じゃないから、そんな丁寧な言葉遣いしなくてもいーのよ?」

あ、そっちの方でしたか・・・心臓が引きつるかと思いました。

「すいません。ですが、このように言うように幼少の頃から躾けられていましたし
もうこのような口調が当たり前なので…すいません」

「そっかー。じゃ、よっぽど気位が高い我侭な奴なんだね」

凄く納得したようにロングヘアーの少女が胸を張りました。

「そーだね。私たちでも主人を前にしたらスッゴク丁寧で謙った言い方しなきゃ怒られるもんね〜」

「そこまで染み込むなんて、ほら、案外アレの雑用係だったりして」

「え〜。まさか〜噂でしょ〜?」

なにやら三人の方が楽しむかのようにヒソヒソ話を始めてしまいました。
気になるので聞くことにしましょう。

「ええと、アレとは?」

「魔女よ。魔女」

「・・・・え?」

あまりにも意外な返答に驚いて口をあけてしまいました。

「魔女…ですか。ですが、あの方は数年前にお亡くなりにと聞いていますが…」

「そうなんだけどね〜。14か15年前らしーけどね。死んだのは」

「でもね、最近魔女が城に来て亡霊戦士の対策を練っているってもっぱらの噂なの!」

魔女が、亡霊戦士の対策??
新たな魔女が誕生したのでしょうか…そこまで力のある方がいらっしゃるとは…

「なんだか怖いよね〜。誰もその姿を知らないのに、魔女が王を護っているって魔術師や術者が噂してるし
一部じゃ見たって言うの」

「え?見たのですか?」

「確かね〜。人とは思えない不気味な姿をしてるけど、とっても美人なんだって」

「そうなのですか」

一体、どんな方なのでしょう。

「ほら、もうすぐだからお喋りしない」

その一言で三人は黙ってしまいました。ゴロゴロと滑車の音だけが響きます。
少し不安になりながら塔を歩きます。時折、切れ目のように空気の通り道の窓があり、景色が見渡せます。
何気なく見てみました。

「・・・・・・・・・・・・」

「ほら、ついたよ〜」














思わず、腰砕けになりそうになりました。

ここから見える景色にある、四角く区切られた塀達
まるで迷路のように入り組んでいる通路にひしめき合うように閉じ込められている丸い物体。
あれは…

奴隷戦士を作るための一時収容所。

魔女が生存している時から存在していましたが、それとは比べ物にならないほど
広い敷地にぎっしり治められています。
あの中に居る方は遅かれ早かれ殺され、髑髏を取られてしまいます。

これなら反乱も起きる事でしょう

妙に、納得をしてしまいました。










用事が終わったので、彼女たちと別れて、収容所の近くを歩くことにしました。
呼び止められる心配もないので、じっくりと観察しながら急ぎ足で歩きます。

そろそろ夕方ですし、戻りましょう

夜になるとお城から出るのは難しくなりますので、そろそろ戻ることにしました。
このまま道なりに進むと門に行き着きます。

歩いてしばらくして、ふと、石壁から一本の枝が飛び出ていました。
良く見ると紙が括りつけられています。
更に良く見ると、どうやら壁抜けのような魔術がかかっているようです。

ですから、道行く魔術師や術師などが無視しているのでしょう。
それとも、はじめから気にもしていないのでしょうか?

一応近づいて木の枝を掴んでみました。
掴むと同時に岩から枝が滑り落ちました。
取れてしまったので、仕方なく紙を取り、開けてみる事にしました。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」











えーと…どうしましょうか??








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