気になるので行ってみました。
塔への近道を使います。

占い師を閉じ込めるのは大体二つしかありませんから

一つは王宮実験室
もう一つはこの塔の最上階


くるっと忍び返しの壁を通過すると塔の最上階へ到着しました。
丁度真正面にテーブルがありまして、真正面に女の人が座っています。
とても驚いた表情をしていました。

「誰?」

「ええっと」

咄嗟に抜いてきた枝と手紙を示すと、女の人はぱぁっと表情を明るくさせました。

「じゃ!貴女が!?」










「落ち着かれましたか?」

「ごめんごめん。だって、本当に占い通りだから吃驚しちゃって…」

「?占い通りとは?」

尋ねると女の人は苦笑を浮かべて遠くを見つめながら窓へ視線を向けました。
とても悲しそうな表情をしています。

「奴隷戦士によって私も例外なく術者として連れてこられたんだけど
……〜〜あのクソ女の責で占い師としての資質を見出されて
ずっとずっと訓練されてきたの。それが腹立つことに
私占いの資質本当にあったみたいで、半年で水晶に未来が見えてきて
正しいことを言わないと仲間を殺すって脅されて…
でも最近知ったの、その時一緒に掴まった仲間はもう…。
だから逃げたかった。もう私を縛るものなんてないんだし
それに、あいつらの言いなりになるなんて嫌なのよ…友達だったのに」

えーと…
質問に答えていただいていないみたいですけど
追求はしないでおきましょう。
そのような時間も無いことですし

「大変申し訳ありません。
お話の途中なのですが、そろそろ外へでませんか?」

感慨にふけっている途中で止めるのも失礼かと思いますが
こちらの時間も無いことですし、話を切り上げていただきましょう。

そう聞くと、女の人は少し笑顔を浮かべた後で真剣な表情で聞き返されました。

「本当に、逃がしてくれるの?」

「はい。それに貴女は占い師なのでしょう?
今後の展開も多少ご存知のはず。どうでしたか?」

発言した後で、私は「あ」と口を押さえます。
少し皮肉の様に言ってしまいました。
ご気分を害されていなければ良いのですが…

ちらっと見上げると、女の人はにやっと笑っていました。
まるで企みをするみたいに…
女の人が顔を近づけます。

「うん、成功した!」

あ、良かったです。
流石にここは敵陣ですから、緊張します。
後押しみたいでとても心が軽くなりました。

「でもねぇ〜。どうやって逃げるのか解らないのよ。
私の占いは結果しかわからなくって、その途中経過はまだまだ読めないの」

困り果てた様に腕組みをしているのですが、実際はそこまで悩まなくても良いのです。
ここは王宮。あまりにも広くて一人一人行動管理をする人はまずいません。
外へ行く方法で手っ取り早いのはコレでしょう。
念のために、と準備してよかったです。

「それなら、えーと…貴女は…」

「ウィンジェイよ。私はウィンジェイ=パート。
何か良い案でもあるかしら?」

パート…どこかで聞いたことがあるお名前ですね。
誰でしたっけ?
いえ、後で思い出すことにして…

「ウィンジェイさん。私の服、着ていただけますか?」

「はぃ?」

思いっきり不思議そうな顔をされましたが、笑顔で続きを説明すると

…恐々納得されました。













「お疲れ」

「あ、お疲れ様です」

「お疲れ、様です…」

通りすがりの魔術師さんに挨拶をされたのでニコリと微笑んで挨拶を返しました。
ウィンジェイさんは多少引きつっていましたが、向こうは気にしていないようです。

城の門に続く道に、商人が通行する場所を選びました。
ここなら堂々と歩くことが出来ます。
しかし、横を歩くウィンジェイさんの表情が多少引きつっているのが気になります。
あまり不自然だと返って呼び止められると説明したのですが…

「大丈夫ですか?」

「はー…よぉく平然として歩けるわね」

「そうですか?この城は入れ替わり立ち代り激しいので
全員の顔と階級を覚えている人なんてあまりいませんよ」

落ち着かせようとにこやかに言うと、ウィンジェイさんは疲れ果てたようにため息を吐きました。

「度胸、いーわねぇ…」


ウィンジェイさんは私が先ほどまで来ていたローブを着ています。
少し大きなサイズだったので足の裾が少し短いですが、違和感どころか可愛らしいです。
靴は小さくて入らないそうなので、布をちぎって足に巻いて靴代わりにしてあります。
これならどこをどう見ても魔術師の雑用係です。
念のため、髪型も変えてもらっています。

一方の私は兵士担当の雑用の服になっています。
もし素性がばれてしまったときのために、変装用として中に一枚着込んでいました。
薄いので下着みたいな感覚です。
両腕にリストバンドの紋章と、男用のズボンを履いています。


結構人ごみが多いのですが、誰にも呼び止められることなく、門の近くまで着ました。
夜になると閉まるので少し急がねばなりません。

ですが

「!?」

ウィンジェイさんが足を止めました。
そのまま青い顔をして前方を見やると方向転換をして物陰に身を潜めました。
あまり不自然な動きではないのですが、少し驚きました。
慌てて駆け寄ると彼女はとても震えていました。

「どうかされました?」

「あ、あいつがいる」











あいつ…ですか?

気になる人物でも…と思いつつ門を注意深く観察すると

「あ」

確かにいました。
兵士の中に一際豪華な様式に身を包んでいる兵士が…
あれはモル=リルズマーテ…左腕さんです。
久しぶりに間近で伺いましたが、十数年でかなりお歳を召されたようで
…中央の髪がなくなっております。
それでも腕は衰えていないのでしょうね。

あ、いけませんいけません
人のことをとやかく思わないよう注意しなければ…

「知ってるでしょ?貴女なら」

「ええ。ですが、このまま堂々と行きましょう」

言うと、ウィンジェイさんは明らかに怯えたように顔を引きつらせました。
震える身体で両手を顔に押し当てます。

「あいつは私の顔を知っているのよ。
すぐにばれるに決まっているわ!あいつ、あいつがいなくなるまで待たなきゃ」

よほど、酷い目に合われたのですね
きっと…掴まるときに何があったのでしょう。

ですが、ここは心を鬼にして、説得することにしました。

「そうしたら夜になりますし、あまり長居をすると
居なくなってしまったことがバレます。そうなれば厄介ですし」

「解っているわよ!でも…」

すっかり怯えていらっしゃいます。
声もどんどん大きくなっていますし…
周りを見ると少し人の視線を感じます。喧嘩していると思われているようですが
これ以上目立つのは危険です。

どうしようか考えた挙句、一番やりたくない手を提案することにしました。
臆病者の私にとっては身を切るような提案です。

「解りました。なら約束します」

「…約束?」

「はい。もし向こうが気づいたら、私が囮になってでも必ず貴女を逃がします」

「…え」

ウィンジェイさんはじっと顔を覗き込んできます。

本当は正体がバレるのは怖いです。
ですが、このままの方がもっと危ないです。

ですが、よほどの事をしない限り、変装がバレないという確信の方が強いので
私は力いっぱい気合を入れて頷きました。

「ですから安心してください。必ず何とかしますから」

「・・・」

ウィンジェイさんはしばらくじっと見ていましたが、くしゃっと顔を歪めました。

ええ!?泣かせてしまいましたか!?

慌てて「すいません!」と謝ると、彼女はクスクス笑い始めました。
なんでしょうか?突然

「ご、ごめんね。私がわざわざ頼んだのに…我侭言っちゃって…
これじゃ、どっちが年上か解らないね」

コロッと変わってしまったウィンジェイさんを見上げながら呆けていると
彼女はポンポンとこちらの頭を撫でました。

うわわ!良い子良い子されてしまいました!
顔が赤くなります!照れます!!

「頑張る。怖いけど、頑張るよ。手、つないでて良いかな?」

言うな否や返事を出す前に手を握り締められました。
そのまま引っ張られます。

うわわ!状況忘れて照れます!!

必死で平静を保ちつつ、辺りを見回します。

丁度、人の波が出来ていました。
今のうちです!











門の外まで出てきました。
まだ油断は出来ないのですが、ひとまず安心です。

肩に手をやってぐったりとした表情をしているウィンジェイさんに話しかけました。

「お疲れ様でした。意外に大丈夫でしたでしょ?」

「そうね…」

言いながら彼女は少し笑顔を浮かべました。







町外れまで来ると、ウィンジェイさんはここからは一人で大丈夫と答えました。
それでも心配なので聞き返すと、嬉しそうに微笑みます。

「ええ、大丈夫。実は仲間が近くに来てる結果も知ってるの
後は一人でも大丈夫よ」

「そうですか。それなら安心ですね」

「…魔女、ありがとう」

「いえ、どういたしまして…こちらにも多少原因があることですし」

「…それなんだけど、私…
実は占いで次と次の出没期を魔術師に知らせているの。
ここ一ヶ月の情報…主に亡霊戦士の出没日時だけなんだけど…
凄く勝手だと思う。でも…ごめんなさい」

「いいえ、教えていただきありがとうございます」

落ち込んでしまいそうな様子なので、大して気にしてないように
振舞いました。現に彼女の責ではないのですから

微笑むと、ウィンジェイさんは何故か少し表情を固くしました。
怪訝に思っていると、ポツリポツリと言いにくそうに
彼女は視線を逸らしながら話を続けます。

「あと、この前偶然見えたんだけど。
あ!水晶がないと見れないんだけど…それもぼんやりとしか、そこまで力無いし
本当にぼんやりとだけど
その時こっそり亡霊戦士のことを見てみたの…そうしたら
苦しんで泣いてる人が見えて、名前、ちょっと解んないけど
それと亡霊戦士の一人が…絶望して壊れていく姿も見えて
やっぱり名前も解らないんだけど…」

「……」

「運命は変わるから…、教えた時点で、変わるからね!
もう、この占いの発生は半分に落ちたから!だから…」

「はい!心得ておきます」

苦しそうに下唇を噛んでいるウィンジェイさんに向かって、元気良く返事をしました。
彼女は目を真ん丸くして私を凝視しています。
それもそうですね。
悪いことを聞いたのに、落ち込まないのですから…
自分自身の楽観的につい、微笑んでしまいました。

「大丈夫です。良い事と悪い事は交互に起こるんです。
悪い事が起こるなら、良いことに変えることだって出来るんです。
誰かが苦しむ状況になると解れば
厚かましくも、力になれる事だってあるかもしれません。
だから、教えて頂いてありがとうございます。
本当に、ありがとうございました」

ペコリと礼をすると、頭上から話しかけられました。

「なんか、強いし滅茶苦茶よね。魔女って…。
頑張ってね!そして、また絶対に逢うからね!!それじゃ!」

手を振りながら東の方角へ走り出しました。
こちらも手を振って送り出します。

姿が見えなくなって手を振るのをやめると、先ほど言われた言葉が頭を渦巻きます。

苦しんで泣いている人
一人が絶望して…壊れる

木々の上から夕焼けを見ます。
とても赤々と照らされていて綺麗なのですが気分は晴れません。

「苦しんでいる人は…今も苦しんでいるのでしょうか?
壊れる人は、まだ壊れていないのでしょうか…?」


私はその人たちに何をしてあげられるのでしょう…







































「そうか」

王の間ではモルとその部下が占い師の行方を捜しているが一向に見つからないとの
報告がされた。半ば予想していたギュストであるが、その表情は険しいままだ。

「あの部屋を良く調べると一箇所、抜け穴を発見しました
魔術のロックが成されているため、単独での脱走は不可能化と…」

その返答も予想できた。
ギュストの予想が正しければ、占い師を逃がしたのは魔女だからだ。

「ここに潜入しても、誰も気づかないとは、な」

その言葉はここに居るもの全てに捧げられた。
恐縮したように静まる中、ギュストの怒りの波動を遮るようにバチバチと
雷に似た音が発せられ、同時に黒い塊が空間を切るように現れた。









『話と状況を分析しました。
これはもう…”悪”ですね』

「そうでしょう?」

甲高い声が発せられると、しっかりした声がそれに同調する。
カツ、カツと靴音を響かせて、セフィーニーが現れ、ソレに恭しく一礼をした。

「完全に部外者が世界を荒らしておりますわ。
私たちで作る世界が、部外者で作られようとしております」

『解りました。元の秩序に戻すために…

















私自ら出向きましょう』










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