「今、時間良いかな?」













竜司さんが少しお話したいとの事なので場所を変えました。
ベンチが沢山ある公園にたどり着きました。

「あ、ここは」

以前にも来た事があります。奴隷戦士に追われ、修一さんに
助けて頂いた時に通った公園です。

ぐぅぅ〜

…。お腹の音が鳴ったような気がします。

「あ。ちょっと…聞こえた?」

少し苦笑いしながら竜司さんが振り返りました。
聞こえたと答えるのもどうかと思ったので、苦笑で誤魔化しました。

「すぐ向こうにマクドナルドがあるから、そこでなんか買ってここで食べない?」

「そうですね…私も少しお腹が空きました。ご一緒します。
食べながらでも話はできますし?」

さりげなく何の話ですか?と含ませると、竜司さんの表情が一瞬強張りました。
照れとか、驚きではなく、戸惑いが色濃く出ていました。

「そ、だね。できる…」

無理やり作った笑顔で、語尾を濁しながら己に言い聞かせるように頷いた後

「じゃ、買いに行こ。俺ダブルバーガーのセットにしようかな。
魔女はどうする?」

「そうですねぇ…メニュー見て決めます」

「そっか」

先ほどの表情が嘘のように消え去り、いつもの竜司さんに戻りました。
数歩後ろを歩きながら、少し様子を伺います。

この間から思っていたのですが、時々様子がおかしいです。

竜司さんのお話が終わり次第、その事をこちらから尋ねてみましょう。
以前、占い師さんから警告がありましたし



”選択肢はありえない
必然的にそうならざるを得ない”


「・・・」

占い師で、千郷さんを思い出しました。
先ほどまで少し未来予想をして頂いたのですが…その内容が


「それで、魔女はどれ頼む?」

「え!はい!?え、ええと…」

いきなり竜司さんに声をかけられ、我に返りました。
魔女、と聞いてレジのお姉さんが目をパチクリさせています。
メニューの中から一番最初に目に付いた

「チーズバーガーセットお願いします」

「はい、かしこまりました。少々お待ちください」

営業口調で言いながら、マイクから注文を調理場へ伝えています。
それをぼーっと見ていると、メニュー表から視線をこちらへ向けた竜司さんに笑われました。

「魔女でもぼーっとするときあるんだな」

「あ、はい…」

いけませんいけません
落ち込み気味ですが、ここは頭を切り替えてしっかりしなければ!

「お待たせしました〜」

「ありがとうございます」

お持ち帰り用の袋を受け取ろうとして横から竜司さんに掠め取られました。

「じゃ、行こっか」

「あー…はい」

私が持ちます、と言いましたが、結局公園のオブジェとして活用されている
丸テーブルまで持っていってくれました。優しい方です。













「ご馳走様でした」

両手を合わせてお辞儀をして食事を終わります。
竜司さんはもう食べ終えて、ゴミを捨てに行っていました。
帰ってくるのと入れ違いにゴミを出しに行きます。
席に戻ると、竜司さんは何か思い耽っている様に下目がちで両手を絡ませていました。

「えと、それで、竜司さんお話とは何でしょう?」

一向に話しかけてこないので、こちらから話題を振ることにしました。
彼は何度も躊躇いながら視線を泳がせます。
体が少し震えているように見えます。

「あの、魔女…まだ奴隷戦士と、会ったりする?」

「ええ、時々鉢合わせして全力疾走で逃げます。
おかげで足が速くなりました」

竜司さんは少し苦笑しました。

「この暮らし…どう思う?」

「そうですねぇ。慣れればそうでもないですけど
家族に迷惑とか、周りに迷惑とか及ぼさないか不安です」

「そうだよね」

「はい」

「………」

「………」


何度か視線を泳がせてましたが、意を決したように顔を上げると
こちらを射抜くように見つめました。

ドキドキするというよりも、こう…緊張感が背筋をピンとさせます。
追い詰められている人から言葉を発せらたようにも思え、ただ事ではないと直感しました。

「なら、王の味方につけばここで襲われないと思わないか?」

「・・・・・・・・・・・・・・」

えーと…
今、ちょっと良くわかり難いですけど…まさか

「あの、言っている意味がよく…」

苦笑いしながら答えると、竜司さんは多少裏声になりながら
それでもしっかりした口調で言いました。

「俺は、今みたいにずっと命を狙われるのも嫌だし
向こうに行って戦って、傷つくのも嫌だ。
魔術師なんて非現実な者もどうだっていい。
こんな生活はうんざりなんだ。
向こうに就けば…もう狙われない。
知識を得る前の、普通の平穏な生活に戻ることが出来る。
そう約束してくれたんだ」

「・・・・・・・・・」

「と、時々は向こうの手伝いをしなければならないだろうけど
命の保障はつく」

一言一言震えながら言っています。
それは決意なのでしょうか?
それとも何かに対する恐怖なのでしょうか?

竜司さんは戸惑うこちらに再度尋ねます。








なんだか信じられません。
竜司さんがそんな事を考えていらっしゃったなんて

確かにむこうの方へ就けば、命とか生活とか普通に戻れるでしょうけど
それを誰もが考えたと思いますけど

それは、皆さんに対する裏切りになります。

味方のフリをして裏切るのは
並大抵な辛さではありません

それを”知っている魔女”としてはなんとしても竜司さんを…

あれ?おかしいです

竜司さんはいつ、約束したのでしょう?
いつ誰と?約束する?約束…任意?強制?

様子がおかしかったのはいつからですか?
彼の様子が変わりだしたのは…

「魔女、あの…」

「竜司!!」

「!!!?しゅ…いち」

「!?修一さん?ユニコーンさん?いつから…」

修一さんのお顔が鬼のように怖いのですが…今のお話

「どうゆことだよ!お前!俺と一緒に理不尽な事やめさせようって言ったじゃないか!
そのためには多少危ないこともあるかもって自分で!!
なのに、なのに!!」

お聞きになっていたようです。
修一さんの表情が怒りと悲しみで満ちています。
泣きたいのを必死で堪えているような表情です。

「落ち着いて!落ち着いて!!」

ユニコーンさんが必死で宥めていますが、彼は…なんというか…怖いです。
何をするのか予測できないので目が離せません。
ですから、竜司さんの様子に全く注意をしていませんでした。

「どうゆうことだ!!竜司!!」

視界の端で誰かがこっちへ駆け寄ってきた。
そう思うと同時に首周りに腕が伸ばされました。
ぎゅっと押さえつけられる感じがして無意識に腕に手をかけます。
頭の後ろにボタンの感触がして少し痛いのですが、それよりも
右にカッターナイフの刃がカチカチという音と共に伸びてきているのが気になります。

「それ以上来るな修一!!来るなーー!!」

悲鳴のような叫びが真上で聞こえたときには
私はしっかり竜司さんに後ろから抱えられていました。

えーと…







嘘です。

皆さん、一斉にその方向へ振り返りました。

「今のうちに逃げましょう。竜司さん」

言いながら竜司さんの手をとって反対方向に走り出しました。
彼はぽかんとしながら引きづられていきます。

「あ!」

後方でユニコーンさんの声が聞こえましたが、上手い具合に集まっていた群衆に
まぎれて姿を消すことに成功しました。
公園を振り返ると、結構人が居るのがわかります。
竜司さんの行動でこれほど人が集まっていたなんて…

あのままだったら警察でも呼ばれていたかもしれません。

公園を一瞥して、私は竜司さんを引っ張ったまま走り出します。
これでは立場が逆転ですね。思わず苦笑を浮かべました。

さて、これから何処へ行きましょう。
詳しいお話も聞きたいですし、それなら話が終わるまで邪魔されない場所へ行かなければなりません。

えーと、密閉されていて、あまり人が出入りしない場所で
手軽に入れて監視カメラがついていない場所……

ピンと頭に浮かびました。









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