コォラとフェヴァの戦闘記 【怖い話編】 コンコン ドアを丁寧にノックして入ってきたのが、訓練生のオルボだった。 「どうした?オルボ」 地図に目を通していたフェヴァが顔を上げて不思議そうに彼を見る。 「あ、その…コォラ隊長は…?」 「ああ?あの馬鹿?そこら辺散歩に出てるから、もうじき戻ってくるよ」 「待たせてもらってもいいでしょうか?」 「構わない。適当に座って寛いでおけ」 「はい!ありがとうございます」 ちょっとした静寂の後、オルボが口を開いた。 「あの、フェヴァ副長…お聞きしてよろしいでしょうか?」 「なんだ?」 眼鏡をはずして、フェヴァはオルボを見た。 「あの…どうしてた…」 「たっだいまぁ〜☆フェヴァ!愛しのコォラ隊長さんが戻ってきたぞ〜! 1人で寂しいって泣いてなかったか〜? 取って置きの怖い話持って返ってきてやったぞ〜聞け聞け聞け〜〜!!」 「やかましい!!」 ゴッッ!! フェヴァはコォラの顔すれすれに威嚇射撃を一発お見舞いした。 「あっはっは〜。相変わらずジョーク★が通じないなぁ」 コォラはそれに驚くことなく、平然としたままアイスをふりふり見せる。 「暑いだろ〜、ほら、土産…って、あれ?」 そこで初めて、 「おやおや。オルボ。どーしたんだ?お前の分のアイスはないぞ」 「そーゆー問題ではないだろう」 「これはお前の分。ソーダアイス」 投げられ、ひょいっと掴むフェヴァ。 「暑いからなぁ〜。うーん。隊長がこんなのかじってたら差別だよなぁ、ほんと」 もごもごソーダアイスを齧りながら、 「暑さしのぎに、怖い話でもしてやろっか?」 「い、いえ!お心遣い有難うございます!」 「無理して言わんでいいから…ほら、やるよ」 フェヴァは半分割った片方のソーダアイスをオルボに差し出す。 「い、いえ!大丈夫です!」 「そうか?遠慮しなくていいぞ。 隊長が勝手に抜け出して買ってきたとゆー違反を見られてしまった口止め料だ」 「そりゃ安い口止め料だなぁ」 「黙れ、お前がいうな」 「あ、あの、ほんとに、いいです」 「じゃ、怖い話を聞かせてあげよう。夏の夜長は暑いからさ、多少は涼しく…」 「止めろ。オルボはお前に聞きたいことがあるんだと。それを聞いてやれ」 フェヴァが片割れのアイスを口に含んで、地図を見始める。 「なに?」 「あ、あのですね!」 完全にリラックスしているコォラに、オルボは顔を真っ赤にして興奮しながら叫んだ。 「隊長は、どうしてあんなに強いんですか!?」 最後の一口をほお張りつつ、コォラは「うーん」と声を出した。 「強さ…ねぇ」 頭をボリボリ掻いていると、オルボが更に言葉を続ける。 「今日のヒトモドキトリとの戦いでもそうでしたけど、隊長の強さが凄いです。 熱く語るオルボを、コォラは頷きながら聞いていた。 「その強さ、何か秘訣でもあるんですか?」 言葉が途切れた。 「簡単だ。人間辞めればいんだからな!」 「は?」 呆けるオルボ。 「あ、あの?どうゆう意味ですか?」 「だから、人間を辞める」 再度繰り返しながら、コォラは腰の刀をすらっと抜いた。 「だぁいじょ〜ぶ☆人間辞めたら人間以上に強くなれるってのが定説だ。 「えっ、あ。た、隊長ぅ。じ、冗談は…」
「えへ☆本気☆」 「―――――っ!!!」 ブン 刀がオルボの眉間に振り下ろされる。 「…なぁんてね☆」 刀がオルボの眉間の皮膚に触れるか触れないかで止められる。 「冗談冗談☆」 ドン!!! 殆ど、ひとつの銃音と思えるくらいの連射スピードで、コォラの顔スレスレを何発か弾が通過した。 「冗談冗談☆」 「冗談ですむような話なのか今のは!!!」 「うん☆」 ドン! また壁に穴が開いた。 「全く…いつものことだが、ホント。マジで一度脳味噌砕いてやりたい」 「あはは〜。かなり皺皺な脳味噌だと思うぞ☆」 「寧ろつるんつるんだろーが… フェヴァは席を立ち、オルボに呼びかける。 やれやれ…そういいつつ、フェヴァは刀を納めているコォラに向き直った。 「で。お前、何がやりたかったわけ?」 「怖い話」 「……。は?」 「鈍いなぁ、怖い話を体験させてやりたかったんだ。 ほら、夏の蒸し暑い時はこうやって気絶させて眠らすと安眠できるらしーって言うし。アイス断ったからせめてもの俺の優しさだ。
「本気で言ってるのか?」 「もちろん」 フェヴァは少し頭を押さえる。 「じゃ、起きたらオルボにちゃんとその説明をしておくんだぞ」 「ああ、そのつもりだ、任せろ!」 「あんましお前に任せたくねぇけどな!」 チュンチュン… 「は!自分は一体…」
「よぉ。起きたか〜」 「あ!隊長!あれ、昨日自分は隊長に……」 「そう、俺は切るフリをした。だがお前は逃げなかった。 俺、マジで感心した! 今度は太刀筋を避けれるようにもっともっと訓練に励むべきだ。 「た、隊長…。自分、感激ですっっ!」 感動してうるうるしているオルボと、笑顔満載のコォラを遠くから見ているフェヴァは、密かに思う。 「(あいつ。やっぱ怖い話は誤魔化しやがったな…)」 めんどくさいのでツッコム気にはなれない。 その後、オルボはコォラの言葉により戦闘能力がめきめきと上達していった。 人間、何が幸いするか分からないものである。 |