コォラとフェヴァの戦闘記

【怖い話編】

 

 

 

 

コンコン

 

ドアを丁寧にノックして入ってきたのが、訓練生のオルボだった。

 

「どうした?オルボ」

 

地図に目を通していたフェヴァが顔を上げて不思議そうに彼を見る。
先ほどまで野外訓練で死ぬような目にあってきたばかりだ。
動く気力があったのかと、内心驚く。

 

「あ、その…コォラ隊長は…?」

「ああ?あの馬鹿?そこら辺散歩に出てるから、もうじき戻ってくるよ」

「待たせてもらってもいいでしょうか?」

「構わない。適当に座って寛いでおけ」

「はい!ありがとうございます」

ちょっとした静寂の後、オルボが口を開いた。

「あの、フェヴァ副長…お聞きしてよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

 

眼鏡をはずして、フェヴァはオルボを見た。

 

「あの…どうしてた…」

「たっだいまぁ〜☆フェヴァ!愛しのコォラ隊長さんが戻ってきたぞ〜!

1人で寂しいって泣いてなかったか〜?

取って置きの怖い話持って返ってきてやったぞ〜聞け聞け聞け〜〜!!」

「やかましい!!」

 

ゴッッ!!

 

フェヴァはコォラの顔すれすれに威嚇射撃を一発お見舞いした。
壁に弾痕がくっきり刻まれ、壁の破片が数個中に飛んだ。

 

「あっはっは〜。相変わらずジョーク★が通じないなぁ」

 

コォラはそれに驚くことなく、平然としたままアイスをふりふり見せる。

 

「暑いだろ〜、ほら、土産…って、あれ?

 

そこで初めて、
椅子に座って怯える子犬のように潤んだ瞳をしているオルボに気づいた。

二人のやり取りに度肝を抜かれたか、半分放心状態だ。

 

「おやおや。オルボ。どーしたんだ?お前の分のアイスはないぞ」

「そーゆー問題ではないだろう」

「これはお前の分。ソーダアイス」

 

投げられ、ひょいっと掴むフェヴァ。
二つに割れるソーダアイスだった。
一体本部の何処で買ってきたのか不明だが、
それについて追求する気はなく、ベリっと封を剥ぐ。

 

「暑いからなぁ〜。うーん。隊長がこんなのかじってたら差別だよなぁ、ほんと」

 

もごもごソーダアイスを齧りながら、
コォラはまだ固まっているオルボの前に椅子を持ってきて

背もたれの前で両腕をクロスさせ、そこに顎を乗せた。

 

「暑さしのぎに、怖い話でもしてやろっか?」

「い、いえ!お心遣い有難うございます!」

「無理して言わんでいいから…ほら、やるよ」

フェヴァは半分割った片方のソーダアイスをオルボに差し出す。
オルボは吃驚しながら首を左右に激しく振った。

 

「い、いえ!大丈夫です!」

「そうか?遠慮しなくていいぞ。

隊長が勝手に抜け出して買ってきたとゆー違反を見られてしまった口止め料だ

「そりゃ安い口止め料だなぁ」

「黙れ、お前がいうな」

「あ、あの、ほんとに、いいです」

「じゃ、怖い話を聞かせてあげよう。夏の夜長は暑いからさ、多少は涼しく…」

止めろ。オルボはお前に聞きたいことがあるんだと。それを聞いてやれ」

 

フェヴァが片割れのアイスを口に含んで、地図を見始める。
コォラはそれを視界からはずして、オルボに向き直った。

 

「なに?」

「あ、あのですね!」

 

完全にリラックスしているコォラに、オルボは顔を真っ赤にして興奮しながら叫んだ。

 

「隊長は、どうしてあんなに強いんですか!?」

 

最後の一口をほお張りつつ、コォラは「うーん」と声を出した。
フェヴァを見ると、彼は完全にわれ関せずといった風貌で、明日の訓練内容を確認している。

 

「強さ…ねぇ」

 

頭をボリボリ掻いていると、オルボが更に言葉を続ける。

 

「今日のヒトモドキトリとの戦いでもそうでしたけど、隊長の強さが凄いです。
キメラなんかまるで赤子の手を捻るように…
まるで人間とは思えない強さです!

どうやったらそんなに強くなれるんですか!?

自分、強くなりたいんです!隊長のように!!」

 

熱く語るオルボを、コォラは頷きながら聞いていた。

 

「その強さ、何か秘訣でもあるんですか?」

 

言葉が途切れた。
オルボは真剣にコォラを見つめる。
コォラは少し目を瞑って…そして軽快に答えた。

 

「簡単だ。人間辞めればいんだからな!」

 

「は?」

 

呆けるオルボ。
その後ろでフェヴァが持っていたペンがベギっと折れたが
彼には聞こえていないらしい。

 

「あ、あの?どうゆう意味ですか?」

 

「だから、人間を辞める」

 

再度繰り返しながら、コォラは腰の刀をすらっと抜いた。
笑顔で…笑顔で抜いて、そしてそのままオルボに向ける。

 

「だぁいじょ〜ぶ☆人間辞めたら人間以上に強くなれるってのが定説だ。
ってことで、逝って来い!ご冥福を祈る!!

「えっ、あ。た、隊長ぅ。じ、冗談は…」

「えへ☆本気☆

「―――――っ!!!」

 

 

ブン

 

 

刀がオルボの眉間に振り下ろされる。
オルボは真っ青で冷や汗を浮かべたまま、微動だにせずに刀を凝視している。

 

「…なぁんてね☆」

 

刀がオルボの眉間の皮膚に触れるか触れないかで止められる。

 

「冗談冗談☆」

 

 

ドン!!!

 

 

殆ど、ひとつの銃音と思えるくらいの連射スピードで、コォラの顔スレスレを何発か弾が通過した。
後ろの壁に四発の跡が新たに刻まれる。
コォラは平然としたまま、同じセリフをフェヴァに言った。

 

「冗談冗談☆」

 

「冗談ですむような話なのか今のは!!!」

 

「うん☆」

 

ドン!

 

また壁に穴が開いた。
フェヴァはうっすら煙が出ている銃口をコォラに向けたまま
鬼のような表情をしているが

本気でコォラに当てる気はないらしい。

 

「全く…いつものことだが、ホント。マジで一度脳味噌砕いてやりたい

「あはは〜。かなり皺皺な脳味噌だと思うぞ☆」

「寧ろつるんつるんだろーが…
おい、オルボ。大丈夫か?」

 

フェヴァは席を立ち、オルボに呼びかける。
返事はなく、気を失っているようだ。
念のために心音を調べてみる。
確認できるのでショック死はしていないようだ。

やれやれ…そういいつつ、フェヴァは刀を納めているコォラに向き直った。

 

「で。お前、何がやりたかったわけ?」

「怖い話」

「……。は?」

「鈍いなぁ、怖い話を体験させてやりたかったんだ。

ほら、夏の蒸し暑い時はこうやって気絶させて眠らすと安眠できるらしーって言うし。アイス断ったからせめてもの俺の優しさだ。
ほら、ちょっと顔は死んでるみたいだけど、
ぐっすり眠って明日はきっと疲れなんて残さないぞ☆」

「本気で言ってるのか?」

 

「もちろん」

 

フェヴァは少し頭を押さえる。

 

「じゃ、起きたらオルボにちゃんとその説明をしておくんだぞ」

「ああ、そのつもりだ、任せろ!

あんましお前に任せたくねぇけどな!

 

 

 

 

 

 

 

 

チュンチュン…

 

「は!自分は一体…」

「よぉ。起きたか〜」

「あ!隊長!あれ、昨日自分は隊長に……」

「そう、俺は切るフリをした。だがお前は逃げなかった
凄いなぁ、オルボ。俺の太刀筋を逃げなかったんだぜ?
最初の入隊に比べたら、かなり度胸が上がったって事になるよ!

俺、マジで感心した!

今度は太刀筋を避けれるようにもっともっと訓練に励むべきだ。
お前はやれば出来る奴だ!

頑張れ!!」

「た、隊長…。自分、感激ですっっ!

 

感動してうるうるしているオルボと、笑顔満載のコォラを遠くから見ているフェヴァは、密かに思う。

 

「(あいつ。やっぱ怖い話は誤魔化しやがったな…)」

 

めんどくさいのでツッコム気にはなれない。

 

 

 

 

その後、オルボはコォラの言葉により戦闘能力がめきめきと上達していった。

人間、何が幸いするか分からないものである。