天気が良いのはいつものこと 学校へいくのもいつものこと 両親がボケボケなのもいつものこと 私が…そう、運命なんてものに縛られる世代じゃなかったら、ごく普通の女性として一生を終えていただろう。 しかし
『ぐにゃぁぁぁぁ!!!』
「行ったぞ!魄(ハク)」 目の前に迫ってくる妖獣を見据えつつ、私は詠唱を唱えた。 「すい・わ・るい・けつ・さん・じゅう・るじ・う・……」 ごぉぉぉっと私の手に水がうねりを上げる。 「ウォーターカッター!!」 手を振り下ろすと同時に、妖獣は細切れに砕かれた。 うねる水を一振りで鎮め、私は『主』を見やった。 「…で?終わったの?」 主こと、『壱拾想 鷹尾(じゅうそう たかお)』は人の苦労を欠片も知らないほど能天気に頷いた。 「ご苦労様。さ、戻っていいぞ〜」 「言われなくったって戻るわよ」 言いながら、私は人間に戻る。鷹尾は私を上から下まで見て笑いながら言う。 「やっぱ。人間に化けている方が不細工だよな〜」 「やかましい!!」 この男は全く持ってデリカシーに欠けている。一発お見舞いしてやりたいが、時刻の問題があるから残念だがその点はパスだ。 「あああ!もう!遅刻しちゃう!!」 「ああ、ご苦労さま〜。予備校だっけか?その年で留年は大変だな〜」 「ちっがぁぁぁう!!資格取るための学校なのよ!年齢に触れるな!ドアホ!!」 はき捨てつつ、私こと、都野窪 魄(つのくぼ はく)は今年入学したばかりの情報専門学校へ走り出した。
鬼が眠りし人の血筋
古の昔。 古(いにしえ)って呼ばれてるくらいだから、人の記憶にはないほど昔の時代って意味だろう。 もっとも、こんな歴史が表に出るわけじゃないから、詳しく記されなかったって程度だと思う。 だけど、一つだけいえるのは、この歴史、血筋ってゆーのかな?それは結構古いみたい。 実際に信じられないかもしれないけど、私の家系は鬼の血が混じっている。 時は平安時代、陰陽師が爆発的に人気になってる時代で、貴族がのほほんと暮らしている文化が創られた時代なんだけど、そのくらいにある事件が起きたらしい。 そのころ、京の山奥の村を脅えさせていた一匹の巨大な鬼がいた。 その鬼は性質が悪くって、どうやら人の怨恨を糧に、実態がない体…巨躯を持っていて、歴史には書かれていないけど、安部清明がまだ生まれてない時代だったらしくって、おまけに山奥のド田舎。そんな場所に鬼を退治する術を持つ人なんて滅多に来るはずがなく、村人はおびえにおびえていたらしい。 ところが、運良く1人の修行僧がやってきて、修行僧の癖にその鬼よりも強かったらしく、やっつけたんだって。おまけに、その修行僧はちゃっかりしていて、術を扱うのに手ごろな駒を捜していたらしくって、丁度その負かした鬼と契約をしてまんまと使い魔にしてしまったらしい。 でもって、その鬼は、最初はとっても凶悪だったらしーけど、人と触れ合うことによって徐々に思念を糧にして生きるようになったんだって。 で、当然のように人の心を持った鬼は人を好きになって結婚して子供作って…脈々とその血が受け継がれているってこと。 血の濃さは人それぞれなんだけど…それが特に強い人になると、自らを鬼の姿に変えることすら可能になる。 ここまで聞くと、作り話もいいとこ。 小説のネタにゴロゴロ転がっているネタだけども… まぁ、私、都野窪はそのベタベタな設定に埋もれてしまったレアというか、不幸というか…そんな存在。 一言で言えば「鬼」であるし、更に説明すれば「駒」でもある。 鬼という説明は理解できると思うけど、駒という説明をするには、『主』たる壱拾想 鷹尾(じゅうそう たかお)の説明も必要不可欠だろう。 まったくもってめんどくさいけど、仕方ない。 これを読んでピンときていると思うけど、その修行僧が壱拾想の祖先。まぁ、人間だから、寿命が来たら死ぬんだけど、それまでこの人は人々に奉仕していたんだよね。 都も結構どす黒い怨念や怨恨なんか漂っているんだけど、同じ人間だもん。村人だっていざこざがある。貧困な分、こっちの方がシビアだ。人間生きるためなら人すら殺す精神を持っている。 そうゆうのが、鬼や妖獣の餌食…美味しいご馳走になる。 それを鬼という使い魔を使役しながら退治して回ってたんだ。ご先祖はいい鬼になったから、主の行動にとても感心してね。誓ってしまったらしい。
妖獣はいつの時代も必ず存在する。 もし、主の力を持つものが生まれたなら、私はそれに膝まつき、使役されよう。 私の子孫が、お前の手足となり、共に歩むであろう そんなこんなで、壱拾想に力がある者が生まれたら、必ず都野窪にも鬼が生まれる。 そんな約束するなよー…。 なぁんて、悲観してしまいそうだ。おまけに、私の主こと、鷹尾は小学生からの幼馴染。 私が早生まれで一つ上の階級だが、殆ど同い年だ。 しかも、結構完ぺき主義者の癖に手抜きを好むよくわからん性格だから、振り回されることこの上ない。あれは自己中心的性格だ。 人の都合お構いなしで勝手に鬼として使われる。 本当にいい迷惑だけど…悲しいかな、血筋の力は強くて、抵抗できないんだよね… 今のところはとりあえず目立った妖獣を片付けるにとどまっているけど、これが一生続くかと思うと…首吊りたい… 術者と鬼の関係は、自然の摂理になってしまったし、必然になってしまった。 その力ある者は、例外なく影でこっそり地道に妖獣を倒していかなければならない。 ってか、ほっといてもヤツラの方から勝手にやってきて戦い開始。どうやら、人に寝返った鬼や倒す力を人間は彼らにとって脅威であり、根絶やしにしたい人種らしい。もちろん、血が薄かったり、力がなかったら他の人間と同じとみなされ、全然相手にもしない。 普通の人間は、妖獣にとってご馳走であり、根絶やしにすると飯の種に困るからね。 だから、鬼として生まれた私は必然的に妖獣と戦わなければならない。向こうからガンガン向かってくるんでもうしょうがないって感じ。 ほんと、さっさと諦めて己の運命受け入れるしかないんだけどね〜…
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