鬼が出現せし理由知る

 

 

鬼の血筋が他にも…?

そんな展開どうだっていいけど、寧ろ、私の代わりに動いてくれるならどんどん何人でも何千人でもカモンだが…そんな上手い話はない。

魁がもしも、都野窪家に関わりがあるのなら、絶対に誰か知っている。

誰とは、言わずもない、家族だ。

あんまし、気は乗らない。だって、私を育ててくれたのは鷹尾の母親だから。この両親は私を産んだまま育児放棄した輩だから、ハッキリいって親とは認識していない。私がこんなちゃんとした性格になったのは、ひとえに和さんのお陰だ。こいつらは飯しかくれちゃいない。まぁ、飯をくれるだけ、育てていると表現しても、ある意味正しいのかもしれないが……私はそうゆうの認識はしない。

よって、実の親へ怨みも憎しみもないが、特に気にする存在でもない。

好き勝手生きてくれ、そんな感想くらいだ。

でも、こうゆう鬼関係は私より知識が膨大だから…仕方ない。一応確認してみた。

本当はすこぶるアイツらに聞きたくないんだけど…まぁ、生みの親だし、私より年上だし…ってことで…両親に問いかけた。

意図して集まるなんて食事時ぐらいしかないから、テレビをBGMに流しながらお茶碗を右手に、箸を左手に持って、何気なく聞いてみる。

 「ねぇ…魁って知ってる?」

 「カイ…」

父は斜め上を見ながら呟く。あのポーズは思い出している時によくやっている。

「カイ…」

母は首を軽く傾げて視線をそらした。あの仕草は思い出すときによくやっている。

 

そして、二人とも同時にポンと手を打った。

「もしかして、魁!?鬼辺がつく魁って名前の男の人!?」

「そうよ。今日橋の対岸でタカに宣戦布告してきた鬼なんだけど……」

知り合い?と聞く前に、母親が「おやまぁ〜」と言いながら感心したように信じられないセリフを吐いた。

「魁はあなたのお兄さんよ」

私は思わず飯粒を吐き出してしまう。

器官に入ってかなり咽ながら、次の言葉を何とか搾り出そうとする。

「あ゛?兄??」

「生存してたのね、あの子…。ずっと行方不明だったけど、元気そうだった?」

「いや、ちょっと待って。兄って…」

「左に赤い印があったでしょ?あなたと同じ印のはずだわ」

「ああ、あったけど…ちょっと待って、頼むから、ちょっと待って…」

口腔が潤うくらいの少量の水を口に含んで、私は何とか気持ちを落ち着かせる。

「根本的な事聞くけど、この家に他に子供がいたの?私初耳なんですけど……」

「ああ、あれは…お前が生まれる一年前かな…?当時3歳の魁と一緒にハイキングに行ったんだが、ちょっと目を離した隙にどっか行ってな。結局見つからないし、日が暮れてきたから探すのめんどくさくなってしまって…、普通の子とは違うし、まぁ、その内自力で戻ってくるかと思って放っておいた」

「……」

父は感慨深そうに遠い目をしながら昔話を語りだす。感慨深げに話ししているが、そりゃぁ犯罪行為だって。この分じゃ、捜索願も出してなさそうだ…。ったく、人の血が通っているのかこの親父…。母は鬼の血筋だから、人でなしでも十分やっていけるけど、あんたは純粋な人間だろうが…。

あああ、なんか頭痛がするぞ?

露骨に苦虫を潰したような顔をした私に、母がフォローっぽく続きを話す。

「それでね。そう思って半年待ってみたけど帰ってこなかったから、これは死んじゃったかな〜?って思ってね。いきなり第一子が鬼の血濃く受け継いでたから、育て方よくわかんなくって、ちょっと考え方甘かったかな?って思ったから、念のために後継者をもう一人作ることにしたの」

ちょっとどころじゃなく、一般論ずれすぎて修正不可能だわこりゃ…。

完全に子供に愛情を持っていないばかりか、これで保険かけてたら完全に保険目当ての殺人になるわ…。

おまけに、念のための後継者って私かよ…。殺意沸きそうなのは気のせいじゃないよね?

「そうしたら、また鬼の血が濃い魄が生まれたじゃない?今度は失敗しないようにと、和さんにお預けしたわけなのよ」

「それは的確な判断だったわね」

その点のみ感謝してやるよ。

「でも、それにしたって、何で私に兄弟がいるってこと言わなかったの?犯行を隠蔽してたから?」

「あら?だって、もう死んじゃったって確信してしまったんですもの。あの年でも妖獣は容赦せず殺そうとするじゃない?力はあってもまだ戦い方知らない子供だから、喰われちゃったって思うのが普通じゃないかしら?だから、言う必要がないって思ったの」

当然のように言い放った母と「うんうん」と頷く父。

そうきたか…。隠ぺいの方がまだましっぽい。

私は鬼の力を持っているが、こいつらは鬼の心を持っているようだ。普通の一般人が聞けば目を白黒させる話し方だが……もう昔からだ、何を言っても始まらない、終わることもない。両親は他の人となら人間っぽく喋っている。それでいいじゃないか。どうでもいいや。私は関係ない…。

いつものように、こいつら嫌いだ。と再確認して食事を開始しようとすると、父がまた感慨深げに独り言を言う。

「しかし…やっぱ、生きていたんだなぁ〜。だったら戻ってくればいいのに」

「戻りたくないわよ、フツー」

さり気なくトゲを加えながらご飯を食べる。もう、あんまし話ししたくない気分だ。しかし、私の心情を他所に母や父は魁について色々聞いてくる。

「魁は強い子ね。ちゃんと一人で生きてきているんだから」

「で?どうだった?魁の様子は?」

「知らない。少し話しただけで戻っちゃった」

脳裏には対岸に居た…どうやら兄らしい『魁』ともう1人の少女『雪菜』……。この少女も誰だろう。鷹尾の知り合いっぽかったし。術者の関係も知ってそうだ。この際ついでに、聞いておこう。

「そういえば、魁の隣に少女がいたわ。名前はたしか雪菜」

両親の顔色が珍しく変わった。私はおや?と思いつつ今度こそ「知り合い?」と尋ねると、母は重々しく頷いたが、説明は父だった。

「壱拾想家の分家の二人姉妹の妹の方だ。苗字は切林(せつりん)という。切林雪菜、二百年以上前に分裂した壱拾想分家の最後の生き残りで…珍しく術者としての力を持って生まれたと聞いている。それが魁と一緒に居たとなると…」

父と母は互いを見合し珍しく怒りを見せる。

「ええ、もしかしてあのハイキングで魁が消えたのは…あの見下す詩摘(しつ)に攫われたせいかもしれませんね」

「何てことだ。全く、これだから切林の長男は好かん!!魁は無理やり使役され……なんて可哀想な運命を送ってしまったのだろう…。崖から落ちたと推測するのではなかった、きっと無理やり連れて行かれたに違いない…ああ、あの時、崖付近で消えたのを不信に思うべきだった」

普通は絶対に思う。ってか、遅すぎだあんたら。

まぁ、そんな事をあいつらに言ってもしょうがないので、私はただ黙々と食事に専念することにした。

 

血の繋がった兄…死亡したことになっている。

分家の切林雪菜…ちなみにその長男さんに対して異様に両親が嫌っているらしい。

 

どうでもいい情報がそろったが、これからの戦いではあんまり役に立つものでもなさそうだ。

まぁ、複雑っぽい人間関係がちぃっとだけ明らかになった…とだけ、収穫という形にしておこう。