コォラとフェヴァの戦闘記 【古代蛇E】 外は吹雪いていた。 吹雪いて、回り一面真っ白だ。 雪を踏みしめるよりも氷を踏みしめるような感覚がする。 「で?どうするよ、あれ…」 普通なら遭難確実の地形や天候にも関わらず、 そこまではいい だが、その先が問題だ 猛吹雪の中、輸送機と同じ長さと思える蛇が格納庫の入り口に牙を立て、 ど根性カエルより凄い 「……うーん…ほんまにアイツ蛇なんか?」 非常識に慣れ親しんだコォラですら、その光景は異様と取れているようだ。 人間的一面を見て、フェヴァは微妙に安心した。 「どうする?このままじゃ俺らが入ることも、ヘリが飛び立つことも出来ないぞ?」 「だよなぁ…」 コォラはじーっと蛇を見て、白い息を吐きながらきっぱりと言った。 「ここは一つ、中の人間が食われるまで待つか☆」 「そう言うと思ったが、却下だ」 「言い方弱いな、内心同意していると見える」 「人間、誰だって自分が一番だ」 キッパリ言ったフェヴァを見て、コォラはゴーグルの下で微笑んだ。 「この正直者〜」 「・・・・・・。」 ちらりとコォラを見たフェヴァは、やれやれと言いたげに預かっていたロケットランチャーを肩から下ろした。 弾をセットして目標を蛇の頭部よりやや後ろへ向ける。 コォラはそれを見て、ポケットから無線機を取り出した。 「もっしもっし機長ぉ〜。聞っこえ〜る、かぃ?」 「なんで『もしもし亀よ亀さんよ』のフレーズなんだ?」 横目で見ると、無線機から返事が聞こえてくる。 『な〜んだ、お前か、聞っこえるよ〜ぉ♪』 「機長もノるな!!」 「ここにいるやかましいのは無視しちゃっていいぜ。それより、飛び立てそうか?」 『あー。そうだなぁ、尻が重いんだが、なんとかいける』 「せめて後ろって言えよ…」 「じゃ、飛び立ってくれ。 蛇がぶら下がったらロケットランチャーで落としてみようと思ってるから、上手くすれば外れるはずだ。 もし失敗したら…」 コォラはちらっとフェヴァを見て 「フェヴァの枕元で怨みつらみを述べるといい。あくまでも撃つのはこいつだから」 「俺1人の責任か!?」 「ああ。間違いなくお前だな」 『ああ、間違いなくそいつだろうな』 「意気投合すンな!!」 『丑三つ時は覚悟しとけよ。地獄から鬼を引き連れてどんぶらこ〜どんぶらこ〜と針を持って三途の川を渡ってくるからな…夜な夜な枕元で毎晩漢泣きしてやるぜ…しくしくしく』 「止めてくれ。もうどっからツッコミ入れていいか分からなくなる」 「全部だろう?」 「お前(コォラ)が言うな…」 ギリッと奥歯を噛み締めて、フェヴァは標準を定める。 ヘリがプロペラを回して雪煙を上げながら浮き上がった。案の定、食らいついた蛇がうねうねとうねりながらヘリを巻き取ろうとする。 不安定な動きは、ちょっと突風が吹けば地面に激突するだろうと思える。 傍から見てそう思えるのだ、中は大波の状態だろう。 なんとか、ヘリが上空へ舞い上がった。 蛇のとぐろを巻く模様に若干の綻びみたいなものが見える。 多分、締め付けが緩んでいるのだろう。それでも離れないのは、さすが蛇、執念深い。 ヘリの状態を見ながらコォラが機長に指示を告げる。 「そうそう、その位置、その位置。機長、あんた扱いうまいねぇ〜」 上手くなきゃ機長になれねぇって…とフェヴァは内心ツッコミを加える。 コォラはゴーグルをはずし、裸眼でヘリの動きを確認する。その表情はまるでおもちゃを貰った子供のように弾けていた。 その反対に、フェヴァからは緊張している雰囲気が伝わる。 精神集中が極限まで達している。 いつでも撃てそうだ。 コォラは機長に「キヒヒ」と変な笑いをこめながら言った。 「機長、あと10秒、その位置確実にキープ。射撃合図よりコンマ3秒遅れて上方へ全速力発進、頑張れよ」 『信用するぜ。隊長』 「ああ。こっちもヘリがなくなったら凍死に決定だ。ヘマはしないさ……撃て」 ヴォフン!! コォラの合図と共に、フェヴァは引き金を引いた。 衝撃が、フェヴァの全身に襲い掛かり、ほんの少し後ろに飛ばされる。 弾は雲を引きながら蛇目掛けて駆ける。 蛇の後頭部よりやや後ろへ突き刺さった、同時に ドォン ギェシヤヤヤヤァァァァァ!!! 爆音と共に蛇の体が引きちぎられる。 痛みで蛇の口が大きく開き、ヘリの外装から外れる。 その隙にヘリは急上昇をすると、引きちぎられた大部分の胴体は滑るようにヘリから落下し、雪の煙を上げ、首は若干遅れながらも胴体の後を追って落下する。 大量の血液がバケツで撒く水のように散らばった。 緊張が切れたように息をつくフェヴァの横で、コォラがはしゃいだ。 「たまぁや〜〜☆」 「いや、違うだろ」 重そうにロケットランチャーを置きつつ、フェヴァは即座に訂正を入れる。 コォラは「クフフ」と笑いながらゴーグルをつけた。 「いやいや、多少汚いけど花火みたいだったじゃん。きれぇな赤が白い色に混じってピンク色に…って思うと感動しねぇ?」 「しねぇよ。それに雪の上に血をたらしたら赤く染まる以外ない。絵の具じゃねぇんだ」 「夢がないんだから〜」 「そんな夢捨ててしまえ」 おどけたように言うコォラに吐き捨てるように言うと、フェヴァは落下した蛇の方向を見た。 「蛇、死んだかな?」 「さぁな。まぁ、生きていてもこの寒さで凍死するだろーけど。お前確認しに向かうか?」 「真っ平御免だ」 「意気地なしめ」 「なんとでもいえ、俺はもー…ツッコミに疲れた」 「じゃ、また明日頼む」 「待て」 「それとも消耗電池を背中にはめてやろうか?」 「おいこら」 人をなんだと思っている…と続けようとしたが、頭上からヘリの音がしてやめた。 上を見ると少しへこんだ部分があるヘリがこっちに向って下りてくる。 まるで誘導でもされているような鮮やかな動きだ。 「よくもまぁ、こんな真っ白で吹雪いている中、俺らの位置が正確にわかるもんだ」 感心して呟く横で、コォラが避難用の発炎筒を両手に持ち、誘導していた。 フェヴァはそれを見て、頭痛がするように頭に手を添える。 「ちょっと聞いていっか?コォラ…」 「なんだ?」 「お前、いつから誘導している?」 「蛇を落っことしてちょっとした後にな。さすがに置いていかれるとヤバイし。こっちこっち〜」 正確に誘導する彼を見て、フェヴァは発炎筒を示した。 「……それ、どっから出した?」 「四次元ポケット♪」 「そのオチはもーえぇぇんじゃぁ!!」 フェヴァの怒声が雪山に響いた。 ゴゥウン エンジン音が機内にも響く。 固定座席に座って、フェヴァは周りを見渡した。 コォラ、はもう寝てるのでパス あとは、研究員Aともう1人、そしてロバートがいる。 どうやらあの中で生き残ったのはわずか五人のようだ。 少ないといえば少ないし、多いといえば多い人数だ。 「(でも、上手くやればもうちょっとくらい人数増えそうだったよな〜)」 「なんだ?その目は!?」 別に見たわけではないが、ロバートと視線が合って彼が立ち上がる。 ビリ! 布の切れる音がして、ロバートが振り返ると機体の端にわずかな突起があった。 それで切ったのだろう、二の腕から血が出ている。 「おいおい、大丈夫か?」 フェヴァは立ち上がり、ロバートの場所へ向った。 現在、お互い距離を置いて座っており、一番遠いのはロバートだ。コォラやフェヴァと距離を置くように一番端、つまり蛇が噛み付いていた最後尾にいる。 よくあんな場所に居られるなぁ…とは思わないで置こう。 「こっちこい、ちょっとした救急用具があるから手当てしてやるよ」 「その前にちょっと待った、フェヴァ」 「あ?」 呼びかけられ、フェヴァは振り返った。 さっきまで寝ていたコォラがだるそうに目をしばしばさせながらロバートの方へ指し示す。 「そこ行くなら、出っ張りに気をつけろよ」 「出っ張り?」 「そ」 示す先は端、そこにわずかな突起がある。先ほどロバートが怪我をした場所だ。 「そこ、蛇の牙が埋まってるから」 しーん…と空気が固まる。 フェヴァがちょっと汗を浮かべながら聞き返した。 「…埋まってる?」 「そ。さっき噛み付いただろ?その時に牙が折れちゃってたみたいでさ、中まで食い込んでた。揺れるし、気をつけておかないとな…」 そこまで言って、コォラはロバートに向って笑みを浮かべた。 「毒の液が滴り落ちてたよーな…そうゆう幻覚も見ちゃったし〜」 「……。」 固まった空気の中で、一番早く立ち直ったのがロバートだった。 「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」 決して毒が回っての悲鳴ではない。そのような事実があることに気づいた叫びだった。 「お、お前! け、怪我!あああああっどうすればいいんだ!毒が、毒がぁぁぁ!!」 「えー。だって普通、蛇が噛んだ場所を好んで座るような阿呆が居ると思わんだろ〜?あんた、座ってたのか?あははは〜、バッカで〜〜☆」 「ぬ、うぐぐぐぐぐぐ!!!」 「駄目です!ロバートさん!落ち着いてください!」 「そうですよ、毒が回りやすくなります、安静に、安静に」 「ぅああああ、どうすればいいんだぁ。わしはもう、死ぬのかぁぁ?」 「しっかりしてください、まだ毒の兆候が出ていません。上手くすれば本部について治療できる可能性だってあります、だから落ち着いて」 「そうそう、落ち着いて」 「ぅおおおおおおお」 慌てふためくロバートを研究員が宥めたり毒の手当てをしたりしている。 その様子を、フェヴァは淡々と見つめながら、コォラにこっそりツッコミをした。 「いつの話だよ、それ…。俺が気づいて拭いただろうが…」 「ちょっとした仕返しに、な。だってアイツえらそーな癖して無能だから、腹立つんだよ、マジで」 「ふーん。じゃ、タイミング狙ってたわけね」 「キシシ」 声を殺して笑うコォラの横で、フェヴァも少しだけ笑みを浮かべた。 本部までまだ飛行時間がある。 到着までの暇つぶしに、ロバートのうろたえ様を魚に、二人は雑談に花を咲かせた。
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