コォラとフェヴァの戦闘記

【古代蛇D】

 

 

 

 

部屋の中は電気がついておらず、真っ暗だった。

 

暗闇で何が潜んでいるのか分からない。

 

フェヴァが銃に備え付けられている懐中電灯をあたりに向ける。

 

 

パチ

 

 

!?」

 

部屋の電気がつきフェヴァは驚いて上を見上げた。

 

次にコォラに文句を言いたそうな視線を向ける。

 

電灯スイッチに手を乗せながら、コォラは部屋全体を見回した後、フェヴァに視線を向けた。

 

「……お前。」

 

「ああ?居なさそうだったし、まぁ、大丈夫だろ。」

 

あっけらかんと言いながら、スタスタと破壊目当てのボックスの前に立つ。

 

表示を確認して、配線があるボックスを開けようとするが…

 

「ゲ、鍵かかってやがる。」

 

ムッとしたように毒づくコォラに、当然と言わんばかりにフェヴァは頷いた。

 

「一応管理室だしな。不法侵入者に開けられないようにしているのは当たり前だろう。」

 

「なんだと!俺は侵入者か!?」

 

「ああ、そうだ。」

 

肯定され、コォラは反省のような形で壁に寄りかかった。

 

「何てことだ!俺は今まで招待されてやってきたと思ったのに…!」

 

「(本気でそう思ってたのか?)」

 

心の中でツッコミを入れていると、コォラはぐっと握りこぶしを作った。

 

「認めんぞ!俺を拒否するなど、認める事は出来ない!」

 

ギリギリと奥歯をかみ締めながら、ゆっくりと胸ポケットに手を伸ばし、ヘアピンを取り出す。

 

「お前…ヘアピン持ってたっけ?」

 

「四次元○ケッ…。」

 

「それはもーいい。」

 

「そーか?」

 

仁王立ちでボックスの前に立つコォラ。何となく目がマジだ。

 

「こうなれば…無理やりにでも俺が主人と認めさせてやる!」

 

「………主人って。」

 

フェヴァの呟きには答えず、コォラは力任せで加工したヘアピンをボックスの鍵穴に差し込む。

 

 

カチャ、カチャ

 

カチャ?

 

 

「(疑問符が何故音に??)」

 

 

カチャリ

 

 

「よーし。」

 

大して疲れていないくせに、汗を拭う格好をするコォラ。

 

早速ボックスを開けると、ぎっしりと配線が詰まっていた。

 

「なんだ、本当に配線だけだな。」

 

微妙にガッカリしている。

 

「何を期待していたんだ?」

 

「蛇に食われまいとしてここへ隠れてそのまま死んでいった人の人骨か腐乱し…」

 

「やめんか!ボケ!」

 

「冗談、冗〜談だって、本気で怒るなよ。」

 

首の襟を絞めかけているフェヴァを宥める。

 

「そんな冗談、次言ったら容赦なく撃ち殺す。」

 

「ん?本当だったら良いのか?」

 

フェヴァは何も言わず、銃口をコォラに向ける。

 

「冗談だって、軽ーいお茶目★」

 

片手を上げつつ、もう片手は配線を掴み、遠慮なくブチブチと抜き取った。

 

 

ヴヴヴヴヴ………

 

 

喧しい機械音の一部が停止する。

 

「止まったな。」

 

「これで暫くしたら熱パイプが冷パイプになって一ヶ月もすれば蛇は凍死。」

 

「その前に冬眠するかもしれないが、まぁ…暖かくしない限り、楽に始末出来るだろうな。」

 

「なら、ヘリに戻る……。」

 

コォラがそう言って歩こうとするが、すぐに立ち止まり耳を澄ませた後、天井を睨んだ。

 

 

ヴォン…ズルズル、ヴォンヴォン、ズルズル

 

 

白いペイントで色づけされた鉄の天井から這いずる様な音が聞こえてくる。

 

どんどんこちらに近づいているようだ。

 

「来るな。」

 

鋭い視線を向けつつコォラが言うと、フェヴァも厳しい表情で頷いた。

 

「分かったのかな。熱切ったこと…」

 

「さぁ?図体がデカイから……頭も良いんじゃないのか?」

 

「脳みそがデカイと頭良いって言うもんな。」

 

フェヴァの言葉に二人で軽く笑うと、本題に入る。

 

「で、フェヴァ。戻れる最短縮ルートは?」

 

フェヴァは頭の中で地図を作りながら、いくつかの可能性を上げていく。

 

「エレベーターは乗るまでに追いつかれそうになるだろうから、パス。

熱パイプはもう使い物にならないとはいえまだ機能は残っているから、乱射を考えてその通路を抜けないとすると…

蛇の大きさから通りにくい通路を割り当てると…通気孔だな。」

 

「通気孔の配置、覚えてるのか?」

 

「ええと…ここから通路を右へ、その途中に人が一人か二人通れるパイプがある。

その中を入って数箇所曲がるとB・3の階段に辿り着く。

そこからもう一階上がると左通路の真正面にエレベーターがあるから、使えたらそれに乗って上まで行こう。

もし乗れなかったら…」

 

「階段を上がれば良いんじゃないか?」

 

「巻いてれば…。」

 

「駄目ならそん時考えろ。」

 

「厳しいお言葉で…。」

 

天井端に重みが出てきた。

 

二人は顔を見合わせながら頷く。

 

「それでは。」

 

「行きますか。」

 

音を立てずに素早く部屋を抜け出すと、一目散に駆け出した。

 

 

 

暫くたって全長30メートルの古代蛇が先ほどまでいた部屋からズルズルと出てきた。

 

古代蛇は迷わず二人の逃げた跡を追い始める。

 

 

 

 

 

ガンガンガン

 

非常用階段の通気孔口の鉄板から音が響く

 

ドガン

 

足がニョキッと覗くが、すぐに引っ込み、コォラの顔が出てきた。

 

左右に頭を振って異常の無い事を確かめると、軽い動きで通気孔から抜け出す。

 

「うむ。来てない」

 

満足げのコォラの後から、フェヴァがうんざりした口調で頷く。

 

「何が来ていないだ。マジで追いつかれると思ったぞ?」

 

全速力で階段を駆け上がりながら、心外そうにコォラが付け加える。

 

「そりゃ、お前がロケットランチャー撃つなって止めるからだろ?」

 

「当たり前だ!何処を撃とうとした!」

 

コォラはううん?と首を傾げた。

 

「蛇の頭。」

 

「違うだろ!建物の基礎となる柱を狙ってたんだぞ!」

 

「そこに頭があったから。」

 

あったからって平然と答えるな!撃ってたら生き埋めだぞ、おい!」

 

「なぁ〜、そこまで叫んでて疲れないか?」

 

「疲れるどころか、殺意が沸く……。」

 

「そりゃ〜大変だな。」

 

笑顔で労うコォラにフェヴァも笑顔で答えた。

 

「あはは★マジで事故死させてやろうか?」

 

「はっはっは、そう簡単には死なないさ☆」

 

 

 

 

 

 

 

ズルルルルル

 

 

駆け上がる音と混じって微かに何かが引きずる音が聞こえてくる。

 

「どっちが速いと思う?」

 

さっきまでの気分を捨て去り、生死の選択を決めるために、速さを計算する。

 

コォラも自分達の足音と微かに聞こえる音とを比較しながら、頭の中でそれぞれの移動距離時間を計算する。

 

「そうだな…キャタピラつきの胴体が速いか?」

 

苦々しそうに答えるが、表情は返って生き生きしている。

 

フェヴァは呆れたようにそれを見ると、「悪い癖だな。それ…。」と小さく毒づいた。

 

「まぁ、このままの速度で駆け上がっていけば、出口付近で御対面だろう。」

 

「そうっすか。」

 

 

 

 

チラっチラっと後を振り返りながら、1階に辿り着く。

 

「当然といえば当然だが…もう逃げているみたいだな。」

 

一応、フェヴァが残り人が居ないかどうか軽く視線を向けて調べるが、人気は全くない。

 

「残るほどバカじゃあるまい?」

 

「だな。」

 

肩を竦めて同意する。

 

そのまま最初に入ってきた電子ロックのドアに近づくと、コォラがキョロキョロし始める。

 

「どうした?」

 

フェヴァが声をかけると、不可解そうに後を向けと目配りした。

 

「音が消えた。階段までは確かについて来てたんだが……。」

 

言われ、耳を澄ますが、確かに嘘のように静かになっている。

 

「…ヤバイかもな。早く外へ出よう。」

 

言いつつ、ドアを開けようと押してみるが…

 

「………。開かない。」

 

「はぁ?」

 

後を気にしていたコォラが不機嫌そうに聞き返す。

 

フェヴァも不機嫌になりながら、電子キーの番号を押してみるが、全てエラーになった。

 

「クソ。」

 

「開かない…か?」

 

後ろを見るのを止め、コォラがヘコんでいる電子キーの部分を覗き込んだ。

 

「……ああ、コードが切れてる。」

 

「お前が無茶した責か?」

 

苦笑いしつつ冗談で言うと、コォラは笑いながら否定した。

 

「いや、残念ながら違うな。すっぱりとナイフで切られている。あの野郎だ。連れて行かなかった事を根にもってやがった。」

 

「蛇と凍死しろって事か……これじゃヘリも待機しているかどうか分からないな。」

 

痛そうな表情を浮かべるフェヴァに、コォラはチッチと指を鳴らした。

 

いつの間にかその手に無線機が握り締められている。

 

「…どっから出した?」

 

「胸ポケット。」

 

どう見ても、胸ポケットよりも大きめだ。

 

「四次元○ケット♪」

 

「もーえーちゅうねん。」

 

「同じネタは飽きるな……あ、機長、今何処に居る?」

 

街中で待ち合わせをする感じの明るさだ。

 

『あ〜?何だお前らか。まだ飛び立ってないぞ。もう人居ないだろ、俺の気が変わらないうちに来とけよ。』

 

「了解〜。」

 

プチっと切ると、真顔に戻る。

 

「だ、そうだ。」

 

「お前らツーカーの仲なのか?」

 

脱力しつつそう答える。

 

「んじゃ、行くか。」

 

コォラが電子キーに手をかけながら、ドアを押す。

 

「開かなかっただろ?違う出口を探し……。」

 

 

OK

 

ドアが何の苦労もなく開く。

 

「マジっすか?」

 

呆気に取られるフェヴァに、コォラはにやっと笑い、電子キーに目を向けた。

 

「俺達、友達だもんな★」

 

「(トモダチ…ねぇ…)」

 

どう見ても暴力だろ?

 

「学習能力、学習能力。偉いなぁ〜こいつぅ!」

 

ご機嫌でヘコム電子キーを叩くコォラ。

 

「(叩かれたくなかったんだな…きっと…。)」

 

コォラを関わった電子キーを哀れに思う。

 

「じゃぁな!またどこか出会おう!」

 

電子キーに別れを告げ、二人は全速力で極寒の大地へと進んで行った。

 

 



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