コォラとフェヴァの戦闘記

【出会い編】

 

 


第十一話ー選んだ道ー



 

 

声が聞こえる

 

 

=生き残りで…=

 

=実験………の……を取り込んでいるようで=

 

=……一部のみだが、それでも……のように強い生命を…=

 

=どのみち………だな=

 

 

 

様々な音の中で、印象に残った声がある。

 

 

 

=枝硝子の力をほんの少し取り込んでいる人間=

 

=俺達にほんの少し近いが全く違う力を持つ者=

 

=少量なのが幸いした。お前は人間として寿命をまっとうできる=

 

=この声が聞こえていない事を祈ろう=

 

=この声を忘れてしまう事を祈ろう=

 

=枝硝子を狂気にさせないよう見守ってくれ=

 

=そして、決してこちら側へ来ることの無いようにしっかりと繋ぎとめてくれ=

 

=「存在意義」を忘れて、「コォラ」として生きていかれるように……=

 

=「人」を選んだ枝硝子が、「人」として一生を送れるように=

 

 

 

それは頭の中にダイレクトに届いて

泡のように霧散して、無意味なもののように消えていった。

 

ただ一つ、覚えているのが

その声は、屋敷で出会った青年の声によく似ていた。

 

 

 

 

=出来るだけ、彼と共に、人生を歩んでやってくれ=

 

 

フ……゙ァ

 

 

 

 

=共に=

 

 

 

フェヴァ

 

 

 

 

 

 

「フェヴァ」

 

 

 

頭上から名前を呼ばれて、フェヴァは我に返った。

強制的に椅子に背を預け、やや後ろに傾いている。

通常なら倒れる角度だが、後ろで椅子が安定されているので、転がる事は無い。

その支えている人物の顔が、見上げた角度からパノラマのように広がる。

いつものようにニヤリと意地悪く口の端を吊り上げ、笑っている顔だ。

いつの間にか、定着していた顔だ。

他人に本心を悟らせないために彼が取った、一種の防御反応だ。

それに気づいたのは、随分後だったけど・・・

 

 

「よぉ。おはよう」

 

「寝てねぇぞ」

 

「でも意識飛ばしてただろ?」

 

「……まぁな」

 

平然と言って、上向きにしていた顔を戻す。

体を垂直に保とうと、本能的に腕を使い背筋を伸ばそうとする。

足が床について、一連の動作で立ち上がった。

そのタイミングでコォラが手を離すと、椅子はガタンと音を立てて四足を床へ均等に着いた。

フェヴァは椅子を戻すフリをして、今まで見ていた地図の端をグシャリと潰した。

 

「間抜けめ。地図の端握り締めてるぞ?」

 

案の定、コォラが茶化したように指摘するので、苦笑して誤魔化した。

 

「ここは関係ない場所だ。支障は無い」

 

地図から手を離し、机につける。片手で椅子を引き寄せると、そのまま座った。

 

「で?何しにきた?」

 

「つれねぇお言葉。愛しのフェヴァが何をやってるかなー?

瀕死の状態になってないかなー?

死んでないかなー?

一人で寂しそうにしてるんじゃないかなー?

とかとか、気を使って様子を見に着てやったというのに」

 

「そうか。この部屋でどうして瀕死なのか死亡なのかは置いておいて…

そんな気の使いようはいらないから、とっとと出て行け

お前が居ると、一時間で終わる仕事が六時間に増加する

 

「それはフェヴァが俺に見惚れるから、仕事が手につかないんだろー?

自分の不注意を棚に上げて、俺の魅力の責にするなよー

大人気ないぞー?」

 

フェヴァは何も言わず、懐に入れておいた拳銃を取り出して

銃口をコォラの額にピタリとつける。

 

「もう一度言う。

仕事の邪魔をするな。

とっとと出て行け」

 

「はいはいもー。いつにも増して短気なんだからなー。

今度牛乳飲んでカルシウム摂取しろよー」

 

ギギギ

 

引き金に指先の力が伝わっていく。

コォラは肩をすくめながら「はいはい」と呆れたように返事をした。

 

「ご機嫌斜めって奴だな。

仕方ない。一万歩譲って、今日は大人しく退散してやるよ。

一時間後はこう素直に引下がると思うなよ!

俺はしつこいからな!!」

 

「お前の一日はたった一時間だけか!?

ってか、また邪魔しに来るのか!?」

 

「勿論だ☆」

 

「超爽やか笑顔で断言するなーーーー!!」

 

バチっとウインクをすると、コォラは風が吹きぬけるような勢いで部屋から逃げていった。

相変わらずの逃げ足に、ただ呆れるばかりである。

 

「ったく…」

 

立ち上がりかけた体を元に戻して、

フェヴァはぐちゃぐちゃになった地図に視線を向けた。

 

「…誤魔化せた、かな?」

 

ボソリと呟いて、ぐちゃぐちゃになった部分を破り捨てた。

無造作にゴミ箱に入れて、そして作業を続ける。

 

今、自分のやるべき事は、不本意であるが、決まっていた。

 

 

 

過去の出来事は全て罪

 

現在の出来事は全て罰

 

 

フェヴァにとって、人生の出発点がここで

 

終わりもきっと、これに関与した事なのだろう

 

だが、まだ、終わっていない

 

ずっとずっと、死ぬまで、続いている。

 





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