コォラとフェヴァの戦闘記 【出会い編】 第三話ー呼び名ー
見ながらあんな傷だったっけ?と首を傾げる。
もっと酷かったように感じたが、あまり気にしなかった。
母が帰宅する。
混乱…というよりは理解出来ていないらしく、しきりに瞬きを繰り返していた。
時折何かを求めるようにフェヴァを見ていた。
「何言ってんだ。いじめてるわけじゃねーよ」
ぼーと様子を伺っていたフェヴァと目が合うと、
救いを求めるように走りだしフェヴァに体当たりする勢いで抱きついた。
少年はきょとんとしたままフェヴァから離れようとしなかった。
そのまま少年が寝るまでフェヴァは抱き枕のようになっていた。
あまりにも脅えてしまった為断念する事になった。
子供にしては力があり思う以上に役にたったのが大きな要因でもあった。
しかし基本的な知識も忘れてしまっている様で、
学院に通っていないフェヴァが必然的に少年の世話を焼いていた。
そして次の日、スピカが屋根に登り何かを取ろうとしているのを見つけ、フェヴァは注意した。
両手で包んでいる物を得意そうに見せた。
「…?えーと」
ぱぁぁっとコォラが笑う。フェヴァは初めてコォラの笑顔を見た気がした。
「それじゃぁ、コォラはどこから来たのか覚えてないんだ」
父の言葉に、コォラは頷いた。
彼が来て今日で二週間。
最初話せなかった時と比べ物にならないほど、コォラは利発になっていた。
「覚えているのは、ここだけ…あとはぼんやりで、覚えてない」
「ぼんやりと…何を覚えているの?」
母が聞いた。コォラはちょっと思い出すように考えて
「みどり…あと、みず」
コォラは目を瞑った。
「ごぼごぼ鳴る所があって、沢山、いた。おれはそこをずっとみていた。
でも、形まで覚えていない…」
「ごぼごぼ鳴る所…もしかして、水辺の村から来たのかな?」
「でもこの近くには、湖も川も海も流れてませんわ。とても遠いし…
なにより、子供の足ではとても辿り着けるとは思えません」
「…わからなくてごめんなさい」
シュンとコォラは顔を伏せた。
フェヴァはよしよしと頭を撫でて、安心させるように笑った。
「だいじょうぶだよ、きっとコォラの両親が探しているはずだよ」
両親は困ったようにお互いの顔を見やった。
コォラを探す届出が無い事実を、フェヴァや子供達に教えていなかった。
聞いても理解出来ないだろうという理由と
本人が聞くとショックを受けるだろうという理由があった。
「だからそれまで、一緒にいようね」
フェヴァの屈託の無い笑顔に、沈んでいたコォラの表情に明かりが燈った。
「…うん。フェヴァが一緒なら、寂しくない。
ごしゅじんもおくさまも、おにいちゃんやおねえちゃん達がいるから…
全然、さみしくない」
そのままギューッとフェヴァにしがみつくコォラ。
もうこの行動に慣れてしまったので好きなようにさせておく。
寂しいんだなぁ…そう、子供ながらに気遣って…。
|