コォラとフェヴァの戦闘記

【死人蘇り編4】








〜内訳〜

 

 

昼間だというのに誰も居ないショッピングモールは不気味さをかもし出していた。

歩く足音が三つ。

フェヴァとコォラとモリスの三人だ。

子供二人に警察官という組み合わせはなんとも妙な図に見えるが

先頭を行くモリスは気づいていない。

護るために後ろを歩かせている二人の視線が常人のものではないことを…

 

「なぁ、コォラ。この事態はどう思う?」

 

モリスに聞こえないよう、小さな声でフェヴァが話しかけた。

 

「さぁ、ゾンビ騒ぎ…キメラが脱走して繁殖なんて結構あるもんだし

今の状態じゃわからねぇ。

せめてリアルタイムで連絡取れたらなぁ…」

 

「だよなぁ…。あいにく、ここじゃかけれない…」

 

「ここは異常ないようだ。そっちはどうだ?」

 

「異常なし」

 

「右に同じく」

 

裏口のドアをチェックする。透明硝子でないので外の様子は見えないが、人が居るような気配がする。

きっと生きている人間ではないだろう。

モリスは心底ぞっとしたような動作をして念入りに確認すると「次にいくぞ」と催促した。

その後をついていく。

 

「なぁ、フェヴァ。ここはショッピングモールだろ?

金具とか車とかの材料で通信機は作れないか?」

 

「それを俺も考えたんだけど、場所が悪い。

もし、俺らがその筋の人間だと知ったとき、必要以上に頼られるのは勘弁してほしい。

助けを呼んで全員抜け出すのは賛成なんだがな」

 

「あはは〜俺は作れるのか否かを聞いてるんだけど?

フェヴァ、耳ついてるか?

 

「ああ、答え方が悪かった。作れる。紙とペンで設計図を作るところから始まるな。

一番の難題はその材料があるかどうかって所だ」

 

肩をすくめるフェヴァにコォラはにやりと笑った。

 

「じゃぁフェヴァ。お前は通信機を作成できるか動け。その間のケアは俺が担当してやるよ」

 

ニヤリと笑うコォラに、フェヴァは心底驚いたような表情を浮かべた。

 

「へぇ、珍しい。自分から進んで厄介ごとに首突っ込むなんてな。

てっきり俺に全部任せると思ったんだが…意外だ。

こりゃゾンビに食い殺される覚悟しとかないと」

 

本気で心配した口調を聞いて、コォラは彼の背中をバンバン叩き始める。

もぉ楽しくてしょうがない!といった雰囲気がかもし出されていた。

 

「あっはっは〜。だって考えてみろよフェヴァ。

こぉんな楽しいイベント、お前みたいなストッパーがいたら暴走できないだろう?

特にあの男、とってもいたぶりがいがあって楽しめそうだ」

 

あの男…とは、誰を示しているか簡単に脳裏に浮んで

フェヴァは顔をしかめ、ため息をついた。

 

「頼むから、殺人だけは遠慮してくれ

 

「うむ。頭の隅っこに考えておこう」

 

「なんだか楽しそうね」

 

話しながらホールへ戻ってきた二人に、ルオンが呆れたように声をかけた。

決して楽しそうな内容ではないのだが、傍から見たらそう見えるだろう。

 

「こんな状況だっていうのに」

 

「こんな状況だからこそ楽しまなきゃ損だろ?」

 

「お前だけだ」

 

「ぷっ。くすくすくす。二人とも、ね。

でもこれはゲームじゃなくて現実。本当に死人が襲ってくるんだから…

それだけはわかって、現実逃避しちゃ駄目よ、ヤケになっても駄目。生き残らなきゃ…」

 

「勿論♪」

 

「分かってる」

 

楽しそうに言うコォラと重々しい表情のフェヴァ

二人の対照的な返答に、ルオンは苦笑せずにはおれなかった。

モリスも同じらしく、強張っていた表情にかすかに笑みが浮んでいる。

 

「まぁ、若いってのは切り替えしが早く済むみたいで羨ましい…。

その元気が最後まで持てばいいがな」

 

「ああ、そーだな」

 

他人事のように答えて、コォラは「あ!思い出した」とフェヴァに向き直った。

全員で注目するとコォラは腹を押さえた。

 

「フェヴァ。腹減ってないか?

 

「お前…」

 

少し間を開けてフェヴァが呻いたが、軽く無視してモリスに訊く。

 

「俺腹減った。……なぁモリス、ここ何かあるか?」

 

「あ、ああ。三階に食料品店がある。そこで適当に食ってこい」

 

「サンキュー!あとさ。ここって日用品雑貨とか置いてあるか?」

 

「多分、あるだろう。……何をするんだ?」

 

「長期戦になるだろ?だったら武器っぽいモノ集めておいた方がいいじゃないか!

じゃ、俺とフェヴァはこっから自由行動させてもらうぜ〜。

なんかあったら呼んでくれよ」

 

「いいわ。行ってらっしゃい」

 

「あんがと!行こうぜフェヴァ!」

 

「あ、ああ…」

 

フェヴァはモリスとルオンに一礼してからコォラの後を追っていった。

二人がホールから消えていく姿を見た後、

お互い顔を見合わせたモリスとルオンはしばし無言になり

やれやれと肩をすくめた。

 

「あいつら、この状況、理解しているのか?」

 

「…どうかしら?理解しているから、

自分自身を元気付けようとしているのかもね」

 

響く声にフェヴァは耳を傾ける。

 

(まぁ、理解しているけど…問題は、若干たちの悪ぃのが楽しんでるってことだろーな)

 

呆れたようにため息をつくと、前方を走るコォラの足が止まった。

 

 

 

 

 

 

「どーだ?この辺りは?」

 

チーズを手にしながら、コォラは屋上で景色を見ながら訊いてきた。

フェヴァは炭酸飲料水を飲みながら同じように景色を見ている。

その視線のまま、雑貨から持ってきたA4の紙にペンを走らせる。

 

「脱出はまず不可能。ある程度ゾンビ数が定着したようだな。

テレビでやってたニュースを見ても、もう篭城してあれらを凌ぐしかない

俺らにとって、もうここが最後の砦ってやつだろう」

 

コォラは目を細めてパンをかじった。

あれからショッピングモール内をくまなく探索し、ある程度ここが安全だと判断した。

家電製品置き場にあるテレビで全員が集まって食い入るように見ていたが

キリが良いところで二人は抜けて屋上で下界を見下ろしている。

目下には血まみれの人間が大勢集まってきていた。

まるで、この建物に生き物が存在していると肌で感じているように…

 

「ものの3時間か…、あっという間だったな」

 

「そうだな……できたぞ」

 

フェヴァはペンを止めた。その紙をコォラに渡す。

一枚の紙にはショッピングモールの見取り図が細かくびっしり書かれた。

そこには地下駐車場と発電機の場所が抜けている。

地下は外と繋がっているため、武器装備の少ない今の段階では見に行くことは危険だと判断した。

 

「相変わらず…細かすぎて目が痛いなぁ…」

 

「文句言うな。それなら胸ポケットにでも入れられるだろう」

 

「ちぇ。いつもの軍服なら四次元ポケットが使えるのに」

 

「ああ、それが無くて俺はとても清々する

 

「便利なのに…よし。この服でも作るか!」

 

「つくんな!!」

 

落ち込むようなコォラを放っておいて、フェヴァはまた紙にペンを走らせる。

今度は視線を紙に落としながら、物差しや分度器などを使い無線機の作成図を描き始めた。

覗き込みながら感心したように声を出すコォラ。

 

「ほぉ〜。作れそうなんだな」

 

「ああ。電化製品や貴金属なんかを使えば出来るだろう。

車の材料やバッテリー、電話などなど

ショッピングモールでよかったって思うぜ」

 

「だな」

 

「でなければ、他所のお宅に侵入して製品を回収するところだ…

それはこの状態では流石に無理」

 

冷や汗を流すフェヴァに、コォラは仰々しく頷いた。

 

「うーん、ちょっと残念」

 

「ぅおい!」

 

「冗談、ジョ〜〜ダン〜。

で、期間はどのくらいかかりそうだ?」

 

フェヴァのペンがピタリと止まる。

やや渋い顔になりながらゆっくり考えるように視線を動かして

 

「組み立てるとはいえ、1から作るとなると…最低でも4日」

 

「その間に何事も無ければ…の話だろ〜な」

 

「無論だ。こっちに集中できなければもっと日はかかるだろう」

 

コォラはちょっと押し黙って、町全体を見回した。

少しだけ目を細めて、呟き始める。

 

「このまま、順調に行くとは到底思えない。

ここの人間はやや分裂気味な点がある。

協力してやろうとするもの、怯えて己の殻に閉じこもるもの

協力する気もないもの…

生きるという意志があるにも関わらず、最善の策を行わない可能性もある。

まぁ、それはいい。フォローできる分は俺がやる。

問題は…予定外が起こった場合だ」

 

チラリとフェヴァが見上げてきた。

彼の目にも同じ考えが浮んでいるらしい。

 

作戦を練るならまず最悪のシナリオから思いつくこと

 

それが、最終的には最善の策になっていく…。

 

「何かのきっかけで、ここの防御が敗れた場合…か」

 

「ああ。あり得ない話じゃないだろう?

その場合、あの量のゾンビが…、いや、それ以上のゾンビがここになだれ込む可能性がある。

その時に、パターンは二つ

逃げるか。さらに閉じこもるか…

さて、お前ならどーする?」

 

「無線機が繋がったなら、閉じこもるな。外に出たところで同じことだ。

この勢いじゃ、この町以上に広がっているだろう…どこへ逃げても同じなら

あいつらが自滅するまで待つしかない…。

それにこの屋上の広さなら、ヘリポートの代わりにはなるだろう」

 

コォラはニヤリ、と笑った。

 

「なるほど。無線機は完成して通信が出来る状況があるってことだな」

 

「馬鹿にするな。そうするんだよ」

 

フェヴァもニヤリと笑う。

 

「よし、ならフェヴァ。こっちは俺に任せて、お前は完全に通信機作成に取り掛かれ。

こっちに一切顔を出さなくていい。飯は俺が持って来てやる」

 

「了解」

 

フェヴァはペンを紙から放す。

細かくどの材料から取るかまで書かれた設計図が完成していた。

 

「設計図を元に作成してみる。それと…」

 

「それと?」

 

「念のため、篭城する場所を確保しておこう。屋上に通じる道を…な」

 

「頼む。必要な荷物は俺が運ぼう。壊すこともするぞ?」

 

フェヴァは苦笑しながら断った。

 

「やめろ。お前が言うと建物が崩壊するような気がする。

まぁ、良い位置があるし、そこで作らせて貰うよ」

 

「ついでにバストイレ付にしといてくれ。

内装は凄く豪華にして、冷蔵庫とか二段ベットとか

小さな庭もあればうれしいな〜〜〜♪

頼むぜ★

 

「俺は修理屋じゃねぇ!!!」

 

フェヴァが叫んだと同時に、車のブレーキ音が町に響いた。

途端にゾンビがその一点を目指して全力疾走し始める。

コォラとフェヴァがその方向に視線を向けると、

一台の大型トラックがゾンビを引きつつこちらに向ってきた。

 

「何の音!?」

 

屋上のドアが開き、全員やってきた。

トラックを見るなり皆顔色が変わり

「こっちに逃げろ!」と叫びはじめた。

 

「あっちに止まるぞ!」

 

「着たわ!」

 

声が届いたのか、トラックはまっすぐ駐車場口の近くに顔から激突した。

ここからでは位置が遠く低い。

コォラとフェヴァはそのまま軽い身のこなしで3階の踊り場へと降りた。

この下にトラックの天井が良く見え、人がゾンビから逃げるためにトラックによじ登ったり

二台から降りている姿が見える。

すぐにゾンビがワラワラ集まってきた。

 

「うわぁお。全力疾走だ…」

 

心持楽しそうにコォラが周りを見渡した。

確かに、町中の人間がショッピングモールまでの距離を疾走している。

死しているはずなのに、その表情はまるでバーゲンセールに集まるおばちゃんみたいだ。

 

「感心するヒマねぇだろ!」

 

フェヴァはすぐに銃口をトラックに集まっていくゾンビに向けた。

パン!パン!と音がするたび、ゾンビが合わせるように倒れていく。

まともに見ればそのスピードが速く、正確すぎることに気づいただろうが…周りは誰も気づかない。

荷台から怪我をした人を含め、女性2名、男性3名が降りてくる。

 

「ほら!こっち!!」

 

見るとルオンが身を乗り出してまで手を差し伸べる。

ちらっと後ろを見ると、硝子ドアが開いていた。

どうやらショッピングモールの中を通ってここへたどり着いたようだ。

 

「よっと」

 

その脇でコォラが指だけを端に引っ掛け、体ごと外に投げ出し、宙ぶらりんのまま空いている手で助けを求める人をひっぱりあげ、トラックの荷台斜め横にある梯子に誘導する。

周りを見渡すが、もう誰も生きている人間はいないようだ。

他のものはモリス達が開けたドアからショッピングモールの中へ入って行ったらしい。

 

「中へ入るぞ」

 

コォラは下を少し眺めた後、毅然とした態度で全員に促した。

フェヴァは撃つのをやめ、コォラに向き直る。

 

「トラックはどうする?」

 

「運転できる知能はねぇだろ。それに、俺らがここから消えたらあがってくる理由も消えるさ」

 

言いつつ、ルオンが入ってきた窓からショッピングモール内へ戻った。

フェヴァは少し不安そうにトラックにまとわり付いているゾンビを一瞥して

 

「さ。立てますか?」

 

へたり込んでいる中年の男性に手を差し伸べ、ルオンと共にショッピングモールの中へ戻った。

 

しっかり、強固に窓の鍵をかけて蓋をするのは忘れずに…

 

 

 




 

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