コォラとフェヴァの戦闘記

【死人蘇り編5】








〜飛び火〜

 

 

突然駆け込んできた人間は思ったよりも大勢いた。

まず、ひょろりと背が高く、自分をイケメンだと豪語しているハリスト

そして初老の男性のデンマール。その娘ルゥフェー。

どうみてもイケイケギャルのナンシー

中年と老人の中間っぽい男性レーリュー

それよりもやや若く見えるヴェンセンド

トラックを運転してここまで連れてきた恰幅のいいおばさんポイマン

 

本当ならもう1人、生存者はいた。

ゾンビに噛まれて重症だったが、息は合った。

しかし…

 

 

 

狙っていた部屋を粗方改装し終わったフェヴァは、屋上への逃げ道とゾンビブロックを作っていた。

その横で、コォラが先ほどまでの事のあらましを詳しく説明している。

 

「やっぱ。感染…てやつか?」

 

工具に置いてあったレンガ用の接着塗装を塗りながら、フェヴァが聞いてくる。

 

「ああ、だろうな。

ルオンは医者だって言ってたから、手当てしてた…」

 

その最中に、その人は息を引き取った。

付いてすぐに容態が急変。手立てはなかった…が

 

「一瞬で、生き返ったぞ。そう思うくらい俊敏な動きで生きている者に喰らいつこうとした」

 

「なるほど。予想通りだな」

 

「ああ。それで…。ゾンビになる理由が分かったようだ。

噛まれたら感染し、有無を言わせずゾンビになる…と。

まぁ、ホラー見てたらすぐにピンってくるだろーに、遅いなぁ〜」

 

「仕方ないだろ。俺ら見たいにそれが現実じゃないんだから。

彼らにとっては、今が非常識な日常だ」

 

「ふぅん。今日はお前、冷たいぞ。ツッコミが甘い

 

「ツッコミする為の思考にふけるより、この作業が最優先

 

「へん。両方やってくれよ。不器用め

 

「テメェ・・・お前自身を壁に埋めるぞ…」

 

ドスを聞かせながら言うと、コォラは「チェー」と肩をすくめて愛用の日本刀を軽く手入れし始めた。

最初から手伝う気はないらしい。

いつものことなのでツッコミはしない。

 

「それでな。噛まれたら…って気づいたんで。もう一人怪我人に注目することになった」

 

「たった一人か?」

 

「おお。たった一人だ。指を噛まれた奴だな。

今すぐ殺すか、ゾンビになってから殺すかで意見が分かれたが

どうやらゾンビになってから殺すことになったみたいだ」

 

「…辛いな」

 

「そうだな」

 

「それで…噛まれた場合のみ感染するのか?血液ではうつらないのか?

それを調べるのも必要だ」

 

「その点については大丈夫だ。

俺もさっきそれを言ってみたんだが、モリスのおっさん。

ゾンビが血を出して死んでいる水の中に大怪我して突っ込んだってさ。

でも感染はしていない

 

フェヴァの手が止まる。

 

「血では感染しない?」

 

「その可能性があるってことだ。

傷がある肌に返り血を浴びても感染しないが、噛まれると感染する。

今はその説が有力だってこと」

 

「まぁ…どの道厄介な事には変わらない」

 

「だな」

 

 

ダーーーン!!!

 

 

小さく下の階から銃声が鳴り響いた。

 

コォラとフェヴァはお互いを見合わせ、それぞれ口に出すことはなかったが

何が起こったかを理解した。

 

例の人間がゾンビになり、撃ち殺された…と

 

 

 

 

 

 

トラックから人が逃げてきて一夜明けた。

彼らは避難場所から逃げてきた者で、モリスの弟が護衛についていた場所だった。

そこも全員ゾンビになっていると聞かされ、自殺でもしそうなほどの落ち込みっぷりだが

彼は双眼鏡で見える距離の武器店に生き残りを見つけ、ボードで会話していた。

その横でコォラは町を見渡す。

 

 

日付はあっという間に過ぎていった。

 

 

コォラはゾンビの肉体的変化を観察し、生き残りの精神的状態を観察した。

フェヴァは通信機を完成させると同時に、立て篭もるための安全確保を完成させていた。

その間、フェヴァは誰にも会わずに過ごしていたため、

周りからゾンビになったのでは?

と、疑問を抱かせたりしたが、その都度顔を出し、生存をアピール。

調子が悪いだけだと印象付けて、また去る…というのを繰り返した。

 

ダーン!

 

静かな町に銃声が響く。

武器屋で立てこもっている男、ジョイントがボードに書かれた人物を射撃していた。

全員、それを見ている。

生きている者がいないと、その動きは鈍く、呆然と立っているように思える。

だが、立てこもっている建物の周囲はどうにかして中に入ろうと足掻いている動きが目立つ。

 

「おおおお!?」

 

コォラは西瓜の頭のように弾けた人物を見ながら、ジョイントに賛辞を贈った。

まぁ、聞こえないだろうが…

 

「すっげー!百発百中?」

 

「みたいだなぁ…わぁ〜」

 

マイケルも驚くように声を上げた。

一方の女性陣はなんとも苦々しい表情をし、ついていけない、という意思表示をしていた。

 

「理解できないわ」

 

ルオンが肩をすくめた。コォラはニヤリと笑いながら

 

「女子供には理解できないよな〜」

 

「理解したくも無いわ。ところで、フェヴァの調子はどう?」

 

「ああ?あいつ?とりあえず咳きは止まったから、もうちょっとしたらこっちにも顔を出すぜ」

 

「…前にも話したけど、私、医者なのよ?一度くらい、診察させてもらえたら…」

 

「そりゃありがたい。だが…あいつ、その医者で痛い目みてるからナ。

医者は誰も信用してないぜ。まぁ、治療の面、だけど……。

じゃ、俺、様子を見てくるか…」

 

そしてまだ射撃を楽しんでいる男性衆を一瞥しながら

 

「ゾンビだから別にイイケド。

実際なら胸糞が悪くなる現場だ……早く立ち去るに限る」

 

「貴方…」

 

ルオンが言葉を続ける前に、コォラはヤレヤレと肩をすくめると、その場を後にした。

 

 

 

ツーツー…トントン…ガガガガ……

 

フェヴァは完成した通信機を片手に、軍への通信を試していた。

聞こえるのはノイズばかり

ダイヤルを回して周波数を合わせてみる。

 

「こちら合成生物特殊部隊突撃部隊第4班所属、フェヴァ。

本部、応答お願いします

 

『…ガガガこガガガこちら、マリーガガガランド、ガガガガガガ、群れがガガガガガ

ここにガもガガガガ、こちらのガガガ戦力でガガガはガガガガがガガガガガ

応答ガガガしまガガガガすガガガガガ…』

 

違うなぁ…と思いながら更にダイヤルを回す。

 

『ガガガガガガガガガ』

 

「こちら……」

 

「フェッヴァ〜〜〜!たっだいま〜〜〜★

どーだぁーー!完成したかー?繋がったかー!?」

 

『……合成生物特殊部隊?こちらは遍七刻(あまのななこく)だ』

 

黙れ!コォラ!俺が今……

って、はい!合成生物特殊部隊突撃部隊第4班所属、フェヴァ。

登録番号・・・

 

おおお?という表情でコォラがフェヴァの背中に手を置きつつ覗き込む。

心底ウザそうな表情になりながらもフェヴァは相手との会話に集中する。

 

『所属を確認した。フェヴァ副隊長。今現在の状況を教えよ』

 

「緊急連絡が届いていると思うが、こちら我々のほかに生存者が…」

 

「あっれ〜?その声ってもしかして、五年前に俺と一緒に訓練を受けたパチニ?」

 

相手の声が止まった。

 

『げぇぇぇぇぇぇ!お前、もしかしてコォラ!?久しぶりだなぁ〜』

 

「ああ、ホントめっちゃ久しぶり〜!元気だったか〜?」

 

和むな和むな和むなぁぁぁっぁぁぁぁ!!

非常事態だっつーんだよ!!」

 

『ゴホン。す、すまない…

それで、状況は』

 

「町一個全滅、その代わりゾンビ大量発生中★

生き残りは大体10名。もしかしたらもっといるかもしれねぇけどナ。

一緒に居る人数がそれ。

とりあえず、オレら手持ち無沙汰だし、一度非難したいから

中型輸送機を一機、ショッピングモールへ届けてネ★」

 

『え?あ…ショッピングモール…?』

 

「一度で覚えろよ★容量悪いぞ〜★」

 

「その説明で覚えられるか!!!ったく…」

 

フェヴァがもう一度繰り返す。今度はゆっくりそして分かりやすく地理やら状況を伝えた。

 

「ですので、念のため、感染専門の科学班同行もお願いします。

俺らもかかってない、と言い切れないので…」

 

『了解した。4日後に到着するだろう。その場で待機しておくように。

尚、通信機は常に作動させておくように

幾一、連絡を行うこと、以上だ』

 

「了解」

 

「了解〜〜★

ところで、あの時の彼女、今どーしてるんだ?ゴールまでこぎつけたかぁ?」

 

『いやそれがさぁ〜。途中で喧嘩しちゃって…』

 

「だから…和むなーーーーーーーっ!!!」

 

 

 

ブチン…と電気が切れた。

一瞬で闇になった空間で、二人はやや厳しい表情を浮かべる。

 

「ブレーカーか?」

 

「そうだろうな」

 

「通信機は?」

 

「ああ、それなら大丈夫だ。篭城するには発電機機能は必要不可欠。

とりあえず、通信機用には個別で作っておいたから…」

 

「相変わらず器用だねーーー」

 

「面白いからな。それで、どうする?」

 

コォラの口調が変わった。

 

「あいつら、多分点検しに向うだろう。

展開から考えると…何故かゾンビが発電機をいじって壊して

俺らが様子を見に行くというように仕向けた。

それでゾンビとバトル・・・という感じに発展するだろーから…」

 

「俺も行こうか?」

 

「いや。フェヴァは手持ち無沙汰だ。俺が行く。

日本刀一本あれば十分だ」

 

フェヴァはやや間を開けて、半眼で呻いた。

 

「一応、忠告しとくが…

気に入らないからといって、味方を事故死にするなよ?

 

あっはっはっは〜〜★

二人っきりじゃねぇんだぜ〜、そんなことしねぇよぉ〜」

 

「なら、一応忠告しとくが…

壁や柱を切り倒すようなあほすぎることはするなよ?

 

「あっはっは〜〜★

んなことすっかよ〜。刃先がボロボロになるじゃないか

流石に俺でも日本刀の予備があと三本なきゃしねぇぜ★」

 

「三本あったらするのか!?」

 

「あっはっは〜〜★

冗談、冗談だってバ★」

 

言いながらドアから出て行くコォラ。

微妙に不安になりながらも、フェヴァは黙ってその背中を見つめた。

 

頼むから…暴走だけはするなよ…

その場にいねぇから、収拾できねぇよ…

 

 

 

 




 

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