コォラとフェヴァの戦闘記

【死人蘇り編6】








〜まもりたかったもの〜

 

 

コォラが食堂へ戻ると、案の定、ブレーカーについて話があった。

男衆が全員でブレーカーの様子を見に行く、ということになった。

子供だから、ということで、ルオンはコォラにここに居るように持ち掛けたが

 

「そいつは俺達と一緒にこい。ガキでも銃くらい仕えるだろ」

 

「おーけー」

 

コォラにとっては願ってもないことだ…とは

フェヴァ以外誰も気づかないだろう。

 

メンバーはビルの警備員リック、エタラマ、マイケル。

そしてハリスト、レーリュー、ヴェンセンド、モリスの8名で向う。

 

それぞれ銃を持ち、地下駐車場へ向った。

地下駐車場の一番奥に発電機が設置されているらしい。

 

「・・・あけるぞ」

 

モリスがドアに手をかけ、汗を浮かべながらゆっくりと開いた。

 

ガガガ

 

あまり大きくないが、駐車場内に音が反響する。

皆、息を潜めて音を探るが、静かだ。

やや薄暗いが、見えないほどではない。

ちょっと安心したような面持ちで、だが緊張しながら外へ出る。

ブレーカーまではフェンスで道が広く作られていた。

どうやら車が間違えて駐車しないため防止策らしいし、荷台があるので

荷物を一時置いておくためのスペースのようだ。

 

一定の距離を互いに開けて、周りを見渡しながらリックとモリスがブレーカーまで着く。

コォラは丁度ドアとブレーカーの中央に位置し、上を見上げた。

真っ暗で見えにくいが、多分、むき出しの鉄骨を隠すようにコンクリートが粗めに覆っているだろう。

そこまで容易に想像して、ニヤリと笑った。

チンと、腰につけている刀をゆっくりと抜き取る。

妙に知能がある奴は、多分大体こんな手を使う。

 

ドンっ

ガガガガ…バチィ!

 

ブレーカーを作動させたリックとモリス。

一気に駐車場内にある電灯がつき、明るくなる。

 

「よし、回復したな」

 

ハリストがほっとしたように呟く。

 

「さぁ。急いで戻ろう」

 

「ああ、早く戻りたい」

 

恐れおののいたようにレーリューとヴェンセンドが言い合うと

モリスは気づいて銃を放った。

 

ドォンっ

 

ゾンビが頭から血を流して倒れる。

周りを見ると、いつの間にかゾンビがわらわらと集まってきていた。

まるで、スタートダッシュの合図を待っていたかのように、一斉に襲い掛かってきた。

 

「クソ!早く中に入れ!!」

 

銃で応戦しながら、リックが叫ぶ。

皆必死にゾンビと格闘する中、コォラは上から降ってきたゾンビを切り払って笑った。

 

「気をつけろ!こいつら上からも這ってくるぞ!」

 

忠告したのだが、ちょっと遅かったようだ。

 

「うっうわぁ!!

っぎゃぁぁぁぁあっ!!」

 

エタラマが上から落ちてきたゾンビに乗りかかられ、噛み付かれる。

 

「今のうちだ!!」

 

リックが叫んでその場を逃げる。

非情だろうが、一度噛まれると助けられない。

判断としては最善だ。

コォラは迫ってくるゾンビを見ながら舌打ちをする。

まだドアとの距離がある。

 

「チっ。このままじゃ、フェンスを突破されるだけじゃなく

ドアの中に侵入されるな」

 

「くそ。それだけは避けないと!」

 

いつの間にか隣にモリスがいる。

ドアへと走りながらも、迫ってくるゾンビを少しでも減らそうと倒していた。

コォラはちょっと考えて、傍にあった車の燃料を手に取る。

 

「おっさん。銃撃つのやめて全速力でドアに向って」

 

「はぁ?そりゃそうしたいが…あれじゃ追いつかれるだろう

お前こそ早く逃げないか!」

 

「オレに考えがあるから。まぁ、信用してくれよ」

 

いいながら、フェンスに上ろうとするゾンビの頭を刀の先だけ使って、グサグサと刺し殺す。

まるでもぐら叩き状態だ。

 

「何をするんだ?」

 

「焼く。

んー。説明すんのしんどい…

まぁいいや、そこにいてもいいけどね」

 

にへらっと笑うと、蓋を取って燃料を上に向かって投げた。

フェンスを軽く越して地面に落ちる。

燃料はバシャっと音を立てて広がり、コォラの近くまで伸びてくる。

 

「っしょっと」

 

シュン

 

地面スレスレに刀を振る。その速度に小さいながら火花が走った。

 

 

その瞬間、地下駐車場は真っ赤に燃えた。

火はゾンビを包み込むが、彼らの歩みは止まらない。

だが、少しだけ、速度は落とすことが出来た。

 

「走れ!」

 

この隙に、全員ドアに向って走る。

 

ゴォン!

 

しんがりをしていたモリスがドアを閉め、鍵をかけると

やっと全員安堵の表情になる。

皆、汗びっしょりだ。

仲間を失った悲しみより、自分が助かった幸福感に浸っているだろうな

 

コォラは他人事のように考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫かしら?皆…」

 

一日ぶりに部屋から出てきたフェヴァは、ホールをウロウロしているルオンに出会った。

 

「大丈夫だと思うけど?・・・・・一応、コォラがいるから」

 

全滅にはならない、という意味である。

 

「あ、フェヴァ。具合はどう?」

 

「ずいぶん良くなりました。どうやら、精神的にこの状況に参っていたようで…

やっと体も立ち直りましたけどね」

 

「そう。それは良かったわ」

 

「所で、今ここにいるのは…?」

 

見渡すと、殆ど女性人ばかりである。

犬を抱きしめているルゥフェー、ナンシー、そしてルオンの三名のみだ。

他のものはブレーカーの様子を見に行ったのだろう。

 

「ポイマンさんは?」

 

「彼女はレイジャーの様子を見に行ったわ。そろそろ生まれるってテリアも言ってたし」

 

「そういえば、テリアさんも見てませんけど、ずっと付き添っていたんでしょうね」

 

「そうね。初めての子供だって言ってたから、不安なのよ」

 

「そうですか」

 

ドーン

 

銃声が鳴った。

その場にいた者が全員顔を見合わせるが、行動を取ったのはフェヴァだ。

懐に入れていた銃を取り出し、音の方向へ一目散に走る。

 

ドーン、ドーン

 

立て続けて二回ほど聞こえた。

 

「この方向って…レイジャーの方よ!?」

 

ナンシーが悲鳴のように声を上げた。

 

「どうしました!?」

 

フェヴァが走りこむ。そこはおもちゃ売り場で、ちょっとした部屋のような空間だった。

入ってすぐにポイマンが胸を撃たれて虫の息だった。

フェヴァが慌てて反対を向くと、テリアが胸を撃たれて倒れている。

その両手には白い布がつつまれていた。

ベットのシーツは血だらけで、そこには拘束具で拘束されたレイジャーの姿がある。

脳天を打ち抜かれていた。

肌の色からして、ゾンビだ…。

 

「あ、あの、あかんぼ…」

 

ポイマンは最後の足掻きのように口をパクパクさせながら言葉を出して動かなくなった。

 

「ポイマンっ!」

 

ルオンは慌てて彼女の元へ駆け寄る。脈を取っているようだが、手遅れだ。

フェヴァはそれよりも、白い布を開いた。

 

おぎゃぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!

 

元気の良い、赤子の泣き声がする。

 

「赤ちゃん?」

 

ルゥフェーがこわごわ声を出すが動かない。

ナンシーが布を覗き込んで…悲鳴をあげて後ろへ下がった。

ルオンがポイマンを看取った後、赤子を見て声をなくした。

 

「…ああ、赤子だな」

 

まさに生まれたての赤子だ。

ただし・・・・

 

パーン

 

フェヴァは躊躇することなく、赤子の頭を打ち抜いた。

泣き声がピタリと止む。

 

「生まれる前に、ゾンビになって死んじまってたけど」

 

フェヴァはため息をついた。

そして状況を整理する。

まず、様子を見に来たポイマンがゾンビとなっていたレイジャーを撃ち殺したのだろう。

それを、酔狂としか思えないが……テリアが撃った。

撃たれたポイマンが反撃して、テリアを撃った。

 

「馬鹿じゃねぇの?」

 

フェヴァはテリアを一瞥して、布に包んだ。

 

 

 

 

男衆が戻ってきたので経緯を説明して、四人を外へ放り投げた。

そのまま、コォラとフェヴァは屋上にいる。

モリスは仮眠させた。多分皆、疲れ果てて寝ているか、対話しているはずだ。

仲間が…五人減ったのだから…誰もが精神的に疲れている。

 

 

「ああ、馬鹿だな」

 

コォラも同意した。

 

「あいつ。家族を持った事を喜んで、護ることに必死だったからさ。

多分、無くなってしまったことを受け入れられなかったんだな。

あの時点から、気づいていても…認めたくなかった…」

 

「コォラ」

 

「お前の言うとおり、あいつは馬鹿だな。

だが、その気持ちが良く分かるって思う俺も、多分馬鹿なんだろうな」

 

「ああ。馬鹿だな」

 

「ぅわぉ。キッツー」

 

「コォラはテリアと違うだろ?

お前なら、間違いなく相手を始末して、そして、自分で命を絶ってる…。

タイプ的にはそーだろーが」

 

コォラはちょっと驚いたような顔をして

笑った。

 

「ああ。そうかもな。

ってことで、証明したいから、是非ともフェヴァ

このままダイブしてゾンビになってくれ!!

気持ちよく切り倒してやるからサ

 

「お前がここからダイブして地面に逝けや」

 

フェヴァは頭を押さえながらも、彼なりの照れ隠しなのだろう

そう確信している。

 

だからこそ・・・・・・・心底嫌だった。

 

 

 




 

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