コォラとフェヴァの戦闘記

【出会い編】

 

 


第六話ー様変わりする現実…ー





フェヴァは情報テレビを見ていた。

コォラが消えてもう三日経った。

探しに行こうとする兄弟を抑え、約束どおり、家からの外出を極力控えた。

その甲斐あってか、日々増えている殺人事件ニュースに家族の名前が載ることはなかった。

 

 

皮肉な事に、コォラが消えた翌日から、頻繁に殺人事件が勃発した。

それも、人が殺したと思えないほどの残忍な手口ばかりだった。

 

ある場所では、店の従業員、買い物客が全員、ミンチにされていたし

ある場所では、学院にある体育館で首だけの集団が置かれていたり

ある場所では、公園の木に肉の飾りが出来ていたり

ある場所では、巨大な獣の上半身だけとか、下半身だけとかの肉が見つかったり

 

 

ピックアップすればキリがない。

 

 

 

 

そして四日目の夜。

 

「最近、変な殺人事件が多発して、町の様子が様変わりしている」

 

夕食時、父が切り出した。

母や兄弟達はビクっとやや怯えたように体を揺らして、ゆっくり顔を上げた。

 

「この町は危険だ、みんなの安全を考えるともう居られない。

そこで、だ。明後日、別の町に引越しをしようと思っている。

今より住まいは少し狭まるが、それでも家を買い、庭もある。

勿論、転入の準備は全て整えた。明後日にも脱出しようと思っている。

明日から荷物運びの人が来るから、邪魔しないようにな」

 

全員、安堵したように声を上げた。

 

「ぱぱ。でも・・・・・・」

 

フェヴァが躊躇ったように声を上げた。

父は「なんだ?」と発言を促す。

 

「コォラがまだ帰ってきてない。あいつも一緒に……」

 

「フェヴァ。コォラの事は、もうお終いにしなさい」

 

これには、兄弟達が「え?」と声を上げた。

 

「な、んで!?お終いって!?」

 

思わず、両手をテーブルに押し当てて、その勢いのまま立ち上がった。

 

「今まで兄弟みたいに一緒に居たのに!どうしてそんな言い方をするんですか!!」

 

「フェヴァ。落ち着きなさい」

 

「落ち着いています!なんでなんだよ、パパ!」

 

「彼は家族じゃない。それだけじゃ理由にならんか?」

 

「ならない!!」

 

「この場にいない者を探してどうする?

探しに行って、それでお前達が怪我でもしたら…と思うと。不安で仕方ない

それに…コォラは自分から居なくなった。もう一人でやっていけると思ったのだろう」

 

「そんな事を考えるわけない!コォラは戻ってくる!ここに!!

だからもうちょっと…あと三日だけ待って。来週には戻ってくるんだ!」

 

「今週末にはここを出ないと手遅れになる!」

 

父は、一瞬ハッと目を見開いた。失言をしたとばかりに視線を少し泳がせる。

だが、すぐに気を取り直して、「それに」と続けた。

 

「彼も自分が何者か、思い出したんじゃないのか?

記憶喪失っていうのは、思い出すと途端に今までの事を忘れると言うようだし。

なぁ…?

私も辛いんだよ。こんな結果になってしまって…でも、家族の命には代えられない。

判ってくれ、フェヴァ…」

 

「ママは…パパの言うとおりだと思うの?」

 

「ええ。私もパパの意見に賛成したの。コォラが居なくなる前

あの子、部屋で思い出したって呟いていたし…。

だから…ねぇ、フェヴァ。わかって?」

 

フェヴァは黙った。

納得したわけじゃない、ただ、ひっかかりを覚えただけだ。

そのまま大人しく座り込む。そして食事を続けた。

納得してくれたかと微笑む父をまるで観察するように一瞥しながら、黙った。














 

父の言うとおり、次の日から業者がやってきて、家の中がてんやわんやになっていた。

それを口実に、フェヴァは図書館へ行く事にして、町の様子を見ることにした。

 

 

ところどころ壊れた建物

血がこびりついている道路

疲れきった様子の人

警戒発令でピリピリしている空気

 

 

たった五日出ていないだけで、これほど町の風貌が変るのか?と驚いた。

しかし、物怖じはしない。

諦める気がなかったので、町を歩いてコォラの姿を探す。

期限内であれば、連れて帰れば一緒に行けるという判断だったが、甘かった。

 

「見つからない…や」

 

探してみたものの、見当たらなかった。

明日の昼には引越しをしなければならない。

フェヴァは一瞬、戻るのを止めようかと思ったが、心配をかけるのはいけないと思い直し

ずっと付き添ってくれたお手伝いさんにお詫びを言いながら引き返す。

 

もう、黄昏時を過ぎていた。

 

使用人によって、ドアが開けられる。

 

「お帰りなさいませ、お疲れ様でした」

 

フェヴァは落胆して玄関前でため息をつこうとして、背筋がぞっとする妙な感覚を覚えた。

慌てて後ろを振り返るが、広い庭が広がっているだけである。

気のせいかな?と思って中へ入るが……

 

どうにも、落ち着かない。

食事をしても、画像を見ても、本を読んでも、自分の部屋に行っても…

 

「…なんなんだ?」

 

まるで、極寒の中に佇んでいるような、奇妙な寒々しさと痛さがある。

そして、何となく判る。

 

ここは、狙われている…と…

 

今すぐ逃げる必要がある……と……

 

理由は分からない。

だが、フェヴァの脳内に、無視できないほどの警鐘が鳴り響いていた。

 

 

 

 

 

 







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