コォラとフェヴァの戦闘記

【出会い編】

 

 


第八話ー沢山の死ー



 

全員、ハッとしてフェヴァを見た。

彼はガタガタと震えながら呆然と立ちすくんでいる。

 

理解できない。

全然理解できない。

 

だけど、話の中心がコォラだと、なんとなく読み取れた。

 

「ねぇ。その話、なに?僕、わからない。コォラが…なんなの?」

 

「フェヴァ!そこはダメ!こっちへ来なさい!」

 

母が悲鳴のように叫びながらフェヴァに走りよった。

それは振り返り、真っ黒な目を器用に細めた。

 

 

そして、とても美味しそうに見えたのだろう。

フェヴァを視界に捕らえると、明らかににやぁ…と口を綻ばせて

一気に駆け出した。

 

「逃げろ!」

 

軍人は即座に背を向けた獣に向けて発砲しようとした。

 

一体なら、倒せただろう。

 

 

 

グチャッッ

 

 

一瞬だった。

 

 

二階へ続く広い中央階段から、獣が一体、軍人の上に落ちた。

踏み潰された軍人は床に撒き散らされた水風船のような姿になった。

 

「うわぁぁっぁあ!!

 

上から降りてきた獣に、父と生き残っている使用人が悲鳴をあげた。

獣はちらりとフェヴァを視界に止めたが、すぐにこちらに背を向け

近くに居た使用人と父に襲い掛かっていた。

 

 

それが、視界の端に見えた。

 

でも、色んな物がゴチャゴチャに映って、理解できなかった。

 

 

そして気づくと、母の姿が目の前に広がっていた。

体の中心から八本の指先が生えて、ギチギチギチと音を立てながら

母の体が二つに……鈍い音と共に歪な形で引き千切れる。

血と贓物のカーテンを描きながら、フェヴァの上に倒れるように

しかし、ぶつかる事無く床に倒れる。

べちゃりと水溜りへ扱けた様な錯覚がした。

 

「ま・・・まま・・・」

 

フェヴァの目は正面に居る獣に注がれる。

唐突に自分の置かれている状況が理解できた。

次は自分である

避けようも無い、避けられないほど確実な

 














 

 

 

 

「ぁぁ…ぎゃぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ!!」

 

フェヴァは絶叫した。

錯乱状態で逃げ惑う。

獣はすぐに追ってこなかった。

顔をにやつかせ、最後の獲物の姿を愉しんでいる。

 

「ぱぱぁ!!ままぁ!!おにーちゃん!!おねーちゃん!!」

 

足を縺れさせ、血の海を走る。

そこにもう「人」はいない。

四肢の肉片を踏みつけ、ドブを蹴飛ばし、人の欠けた顔の横を走った。

時折、走りを邪魔するように、獣が立ちはばかる。

その都度、悲鳴をあげて迂回した。

 

「ぁうぁう…ぅああああ…」

 

だがすぐに息があがり、フェヴァの足取りが重くなる。

激しく走ったため、酸欠が起こり目の前がくらくらする。

部屋の中を走っただけだったので、最初の位置とあまり変っていなかった。

 

そこで、振り返る。

 

獣は4匹に増えていた。

口や牙が血にまみれ、どす黒い赤い舌をチロチロだしている。

ゆっくりと、こちらに向ってきた。

フェヴァは少しでも遠くへ行こうとしたが、足が動かず、更に血で滑って尻餅をつく。

 

「あ、ぁぁぁあぁぁぁ。あぁぁぁ」

 

もう、怖くて動けない。

 

 






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