コォラとフェヴァの戦闘記

【出会い編】

 

 


第九話ー最後の一人ー



 

 

獣はゆっくりと近づいて、そして……

 

 

ギシ

 

 

音に引き寄せられたように一斉に扉へ顔を向けた。

 

「・・・?」

 

フェヴァは震えながらその方向を目視すると、入り口に小さな子供が立っていた。

 

 

錯乱しきっていた思考回路が、急激に直った。

そこに立っている人物を信じられない面持ちで凝視する。

やはり、間違いない。

 

「コ、ォラ?」

 

消えた時の姿と同じ服装だった。

否、ボロボロで所々血に染まっている。

そして、呆然と屋敷の中を見ていた。

この惨状を見て明らかにショックを受けたように立ちすくんでいる。

 

「コォラ」

 

途端に涙が溢れてくる。

 

嬉しい、嬉しい…こんな状態じゃなければ、もっと嬉しいのに…

 

フェヴァはいつものようににこりと笑った。

 

「遅い、帰ってくるの…。もう逢えないかと思った…」

 

「・・・・・。」

 

コォラの目は周りを見ていた。

使用人だった者。

軍人だったもの。

面倒見てくれたフェヴァの両親。

階段からはみ出しているフェヴァの兄弟の、一部を…

 

最後に真っ直ぐフェヴァを見て、苦しそうに顔を歪めた。

 

「皆……、そして…フェヴァ…まで…」

 

コォラの下唇から、一筋の血が垂れる。

俯き加減のまま、コォラはあろうことか獣に向って歩み寄った。

 

「おい!なにやって・・・」

 

フェヴァは座ったまま叫んだ。あのままだと今度はコォラが死んでしまう。

 

「早く!逃げろ!!コォラ!!」

 

「おれのせいだ、おれのせいだ、おれのせいだ」

 

呼びかけるが、聞こえていないのか、彼は躊躇うことなく獣に突っ込んだ。

 



「このカスどもがぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 



獣は舐めていた。

だからこそ、コォラが繰り出した拳を、あっさりと腹部へ通した。

そのまま、拳が皮膚を突き破り、器官を破壊してからやっと

獣は悲痛な声を出し、コォラ小さな手が内臓を掻き出すと同時にそのまま断末魔の叫びになった。

 



「よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくも」



 

獣は明らかに怯えながら、コォラから距離をとろうとするが、彼は逃げる事を許さない。

 

「よくもよくもよくも…俺の大切な人間を…全員、殺しやがってっっ」

 

獣は引きちぎられながらも、ギリギリ死を免れている。

生き地獄だ。


 

「許さない。許さない。許さない…

うああああああああああああ!!!

 

素手で、獣を引きちぎっている。

細かく、砕くように……

 

信じられなかった。

今、見ている光景が…信じられない。

だが、現実だ。

獣の悲鳴が痛いほど耳に響く。

 

しかし、それよりもコォラの怒涛が屋敷に響いた。

 


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」




 

怒涛、というよりも、悲鳴に近い叫び声だった。

まるで、「獣」のようだった。

「……コォラ…」

 

フェヴァは、頭の中が真っ白になったような気がしていた。

でも、すごく落ち着いていた。

コォラの姿は異常で、そこでバラバラになっている獣と同じくらい異質なのに

どうしてか、全く気にならない。

怖くない。

 

震えが止まった体を起こして、錯乱しているような彼に近づく。

獣はすでに原型がなく、床に散らばる人間と同化していた。

 

「コォラ…もう、そいつ…」

 

死んでる・・・と言おうとしたが、

 

「ガァァァア!!」

 

その前に振り返ったコォラに吃驚して、避けるように体が後方に下がった。

直後、耳元でフュン…と風を切る衝撃が来た。

鋭い痛みが増して、初めて怪我をしたと理解した。

刃物、ではない。爪が肉を抉った。

風を切るほど鋭く早い動きだったが、後ろに下がったのが幸いしたのだろう。

左頬と額を深く抉る程度で済んだ。

あのまま体を前に出したままだったら、顔と上半身を抉り取られていたかもしれなかった。

 

「っっ!!!」

 

吃驚しすぎて、声が出せなかった。

 

「アアアアアアアア!!」

 

一撃を外したコォラは更にフェヴァに襲い掛かろうとする。

目の色が正気じゃない。我を忘れて敵味方の判断がついていないのだろう。

このままでは、コォラに殺される。と理解したが、どう対応していいかわからなかった。

 

血塗れの手が、伸びてきて

 





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