コォラとフェヴァの戦闘記

【死人蘇り編7】








〜犬と赤いボード〜

 

「あ、そうそう、フェヴァ」

 

篭城して丁度14目の朝。

 

「ここから逃げるための改造バス二台。

昨日完成したから」

 

フェヴァはたっぷり30秒ほど間を開けて

訝しげに声を上げた。

 

「はぁ?」

 

「んだから、篭城がもし崩れた場合にここから逃げるための足だよ。

6日で完成させたんだ。俺も手伝った」

 

「いや、そうじゃなくてだな」

 

「お前が本気でやると戦車並になるだろうし、玄人だってバレるから

呼ばなかったけど…もしかして仲間はずれって思ったか?

寂しがりやだなぁ〜

 

違うっ!そうじゃなくて」

 

フェヴァは声を潜めた。

 

「明日の早朝にヘリがここへ到着するんだが…」

 

「分かってるって」

 

コォラは大した事ではない、と言いたげに手をヒラヒラとふる。

 

「向こうはそれを知らないんだ。

まぁ…俺らが教えてないってのが原因だけどな。

脱出口としてはとてもまともだと思うぞ」

 

「確かにな。それで、出来はどうだ?」

 

「ああ?クソ最悪。

外装はまぁ頑丈そうなんだが、視界が滅茶苦茶悪い上に

ゾンビを追い払う武器が極端に少ない。扱う効率も悪い。

あの設置方法じゃぁ、逆にバランス崩して味方殺しそうなほどの危うさがある。

オレは頼まれても絶対に乗りたくねぇな

 

生存という点においてはコォラの意見は場違いに鋭い。

見たことはないが、そのような評価をうけるくらいのつくりなのだろう。

 

「ああ、そうか」

 

階段を上って屋上へ行く。

たしか、ジョイントに食事を届ける為の案を昨日考えていたはずだ。

確か犬を使って運ばせるという案になった。

 

屋上に着くと、全員その様子を伺っていた。

 

「どう?犬さんの具合」

 

コォラがルオンに話しかけると、彼女は犬を示した。

ゾンビが歩くのを難なくクリアし、今まさにジョイントの武器店に入り込む場面だった。

 

「わぁお!すっげーーー!えらい!

フェヴァより偉いんじゃねぇの!?」

 

「黙れ。やかましい」

 

上手くいった、というボードを見て、ジョイントがふらふらになりながらも

下の階へ降りていく。

 

だが、犬が通った出入り口をゾンビの1人が強引に入っていく。

 

「「きゃぁ!大変!」

 

「駄目よー!戻って、ジョイントー!」

 

モリスが無線で呼びかけるが、返事がない。

危機的状況の中、コォラだけが「ヒュゥ」と口笛を吹くと

 

「元人間なだけあって、知恵あるよなー」

 

ぼやいたので、フェヴァが即座にみぞおちに肘を埋め込んだ。

 

モリスの何度かの呼びかけに、ジョイントは応じた。

 

『ああっ!ちっくしょう!噛まれた。

血が、くそう、このやろう……』

 

誰もが絶望の表情を隠せない。

 

「…じゃぁ、リーは!?」

 

ルゥフェーが愛犬の名前を呼んだ。

 

「リーは!?リーはどうなるの!?」

 

「…どうすることもできない」

 

モリスが重々しくいい

 

「諦めるんだな。犬の一匹や二匹」

 

リックの付けはなした言葉に、ルゥフェーは顔色を変え

全速力で屋上からいなくなった。

 

そして

 

フェヴァはエンジン音を聞いて、耳を疑った。

皆もそうなのだろう。

武器店に突撃するトラックを見て、言葉を失う。

 

「ルゥフェーよ!?」

 

「あいつ何やってるんだ!?」

 

「助けにかぁ…すげぇなぁ」

 

心底感動したようなコォラの言葉と同時に

トラックが入り口に激突する。

そこから出来た穴を使い、ルゥフェーは中へ入った。

 

「あ!ジョイント」

 

ジョイントが屋上へ出てきた。

ふらふらの状態でボードをつかむと、こちらへ見せた。

 

真っ赤な血で塗りたくっただけの、白いボード

 

「ゾンビになりたての人は、生前の行動をまずやるって…」

 

ルオンが喉をカラカラにしながら呟いた。

ジョイントがそのまま建物に入っていく。

モリスは急いで無線に話しかけた。

 

「おい!ルゥフェー!そこから今すぐ逃げろ!

通信機を拾え!」

 

『リーを見つけたわ。何?』

 

「今すぐ逃げろ!ジョイントが」

 

『きゃぁ!ジョイント!やめてっ!』

 

通信機からしばし雑音。

 

そして沈黙

 

そして

 

『じょ、ジョイントが、襲ってきたの!どうなってるの!?どうして!』

 

「無事か!?」

 

『ええ、とりあえず小部屋に隠れたの。きゃぁ!ドアが、ドアが!?

助けて!助けて!!怖い!怖いよー!』

 

「どうしよう」

 

ナンシーの問いかけに、マイケルが力強く言った。

 

「助けに行こうよ!」

 

リックが賛同する。

 

「そうだな。武器も欲しいし…問題はどうやっていくか?だ」

 

「それなら、下水道を使えば?」

 

コォラがさらっと言った。

全員が彼に注目する。

 

「あなた、下水道って…」

 

「地図を見たんだ。なぁ、フェヴァ。お前説明してやれよ」

 

「言いだしっぺはお前だろ?

まぁいいか。

この建物の地下一階の食料保管の倉庫に水道と下水の設備があるよな。

そこのマンホールと今見えている武器店の傍あるマンホールは

繋がっているはずだ」

 

「ああ、確かにそうだ。

ここら一帯の下水は繋がっている」

 

レーリューは頷いた。そして訝しげにフェヴァを見た。

 

「ワシはこの辺りに住んでいるから分かるが…おまえさんもそうなのか?」

 

「…まぁ、そんなところです」

 

さらりと嘘を吐く。

 

「なら、救出と武器補充。…どっちにしろ人手がいるな」

 

早急に進む一大事に、フェヴァとコォラはお互いの顔を見合わせ

それぞれ対照的な表情を浮かべた。

 

 

 




 

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