「今日はありがと!北斗!」
途中まで同じ電車に乗り、乗換えから俺達は別れることになった。
泣き終わった凛は最初の時と同じく元気ハツラツといった様子で、大変満足しているようだ。
あろうことか、またタイムカプセルを作り、同じ場所に埋めるという技まで披露した。
無論、俺も付き合わされた。
今度は手紙を入れている。お互い、10年後の自分へ当てた手紙。
俺は10年前に関する出来事を簡単に書いて入れた。ついでに凛への怨みつらみもちょろっと付け加えている。当分、なにを書いたか忘れそうにない。10年後も覚えているかもしれないので、ちょっと困る。
まぁ、それはさておき。
俺らはタイムカプセルを埋めた足で即効それぞれの場所へ帰ることになった。
実家に一晩くらい止まってもいいのだが、凛は明日おじさんのところへ行く用事があり、俺はバイトという用事があるため、出来なかった。
残念だったよーな、そうでもないような…
途中下車をしなければならない凛は一つ前の駅で立ち上がり、俺ににっこりと笑みを見せた。
「私、やっぱり宝探しして良かったって思う」
「タイムカプセルだろ?」
「うん、そーだね。お陰でしこりみたいなの取れた気分」
「謎が解けてすっきりってか?」
「それもあるけど、何より…私の鬱の原因ってのが理解できたから」
俺はちょっと黙った。凛は続ける。
「やだぁ〜。そんな顔しないの」
「凛」
「私、ショックだったんだよ。だから知らず知らずのうちに鬱になってたんだ。原因分かればもう、大丈夫!スッキリ立ち直れる!北斗の言葉、嬉しかった」
「俺の?」
「うん!そ!」
そうして凛は楽しそうに笑って
「あ、到着到着!」
電車がホームへ付いて、ドアが開き、凛はドアが開くと同時に出て、出ながら俺に声をかけた。
「またメールするね!」
「ああ、分かった」
俺が背中にある窓を見るために体を捻ると、凛が階段へ向う人の流れに障害物として立ち止まって、俺を見ていた。視線が会うと、両手をメガホン代わりにし、大きな声で言った。
「今日はありがと!北斗!」
電車のドアが閉まる。
「凛」
虚をつかれた形で固まっていると電車が動き始め、景色が流れようとする。
俺は慌てて身を乗り出すような仕草をしながら他の乗客の迷惑を顧みず、大声で答えた。
「ああ!俺も楽しかった!ありがとな!凛!」
声は聞こえてないと思う。
だが、凛はとても嬉しそうに微笑みながら、首を軽く傾げ、手を軽く振った。
その姿はすぐに消えた。
俺は窓の外を見る。もう全くの別の景色が流れていた。
「…ははっ」
軽く失笑しながら、俺は座り方を元に戻す。
きっと、返事は凛に正確に伝わっただろうと予想しながら、電車のゆりかごに身を預けながら目を瞑る。もしかしたら、寝過ごしてしまうかもしれない。そんな不安が頭を過ぎったが、まだあと30分も時間がある。多分、大丈夫だ。
明日もバイトがある。
また、忙しい日の始まりだ……。
だが今は……夢を見よう、未来の夢だ
十年後の自分とタイムカプセル
きっと、すっかり忘れているから、今日みたいにバタバタするに違いない
俺への呼びかけのタイトルはこうだ
『十年後に出逢う、今より大人になった俺達へ〜〜〜牧田 北斗より』 |